【2月17日 AFP】地球を守るオゾン層の破壊につながる、一部ガスの大気中濃度の上昇に警鐘を鳴らす研究論文が16日、英科学誌「ネイチャー・ジオサイエンス(Nature Geoscience)」に発表された。この種のガスの中には、オゾン層保護のカギとなる国連(UN)条約の対象となっていない人工化学物質が含まれているという。

 英リーズ大学(Leeds University)の環境科学者チームは、2種類の数理モデルを用いて、成層圏にある地球の「盾」であるオゾン層を破壊する、いわゆる「極短寿命物質(VSLS)」の影響を明らかにした。

 人為的に発生する塩素ガスの排出量が上昇するにつれて、VSLSがオゾン層に及ぼす影響は増大し、更に深刻さを増す可能性もあると研究チームは指摘する。

 皮肉なことに、論文で言及されている化学物質の一つ、ジクロロメタンは、オゾン層保護を目的として1987年に採択された国連の「モントリオール議定書(Montreal Protocol)」で使用禁止となったオゾン破壊性ガスの代替ガスを製造するために用いられている。

 大気中に存在するVSLSは、通常6か月足らずで分解する。しかし、比較的寿命が長いクロロフルオロカーボン(CFC)類やハロンガスの段階的廃止を義務づける画期的なモントリオール議定書の対象には含まれていない。

 研究を率いたライアン・ホサイニ(Ryan Hossaini)氏は、AFPの電子メール取材に「成層圏におけるオゾン層消失のかなりの部分で、VSLSが主な原因になっていることを、今回のモデルシミュレーションは示している」と指摘。また「毎年(オゾン層濃度が減少して)オゾンホールが形成される南極地域では、VSLSに起因するオゾン消失は全消失量の約12.5%に達すると推算される。地球全体で平均すると、成層圏下部におけるVSLS起因のオゾン消失量は最大で全体の25%に達する可能性がある」と説明した。ただ、より高高度では、この割合ははるかに小さくなるという。

 VSLSの約90%は自然由来のもので、海藻や海洋植物プランクトンによって生成される臭素化合物だ。残りの10%が人為的に発生する塩素ガスとなるが、現在、人工VSLSの全体に占める割合は急速に上昇しているという。

 ホサイニ氏は「ジクロロメタンは、知られている中で最も存在量が多い人工VSLSの一つと思われる」と述べている。

 悪評高いCFC類に比べると、ジクロロメタンの影響は今のところ小さい。同氏によると、ジクロロメタンによるオゾン層減少の割合は1%に満たないことが、数理モデルによって示唆されているという。

 しかし、その一方で「大気中のジクロロメタン濃度が近年で飛躍的に上昇していることも、われわれの研究で明らかになっている」と説明し、「一部の地域では、ジクロロメタンの大気中濃度が1990年代以降で倍増している」ことを明らかにした。

 研究チームは今回の研究で、米海洋大気局(US National Oceanic and Atmospheric AdministrationNOAA)が提供する生データ20年分を詳しく調べた。

 国連関係機関は昨年9月、オゾン層は今世紀半ばまでの回復に向けて「順調に進んでいる」とした一方で、南極上空のオゾン層については回復にさらに時間がかかると思われると発表した。だが、VSLSが今後も増加を続けた場合、この進歩の一部は相殺されるだろうと論文は指摘している。(c)AFP/Richard INGHAM