【2月6日 AFP】イスラエル中心部に位置する美容院で、美容師のシャローム・コーレシュ(Shalom Koresh)さんが、革新的な新商品を少年の頭に留めている。反ユダヤ主義者による攻撃を恐れるユダヤ教徒のための、目立たない「つばなし帽」だ。コーレシュさんは、微妙な表情をした少年の目の前で、はさみを持ったまま身振り手振りを加えながら、「アイデアが浮かんだのは約6か月前だった」と語った。「ヨーロッパ旅行をしてきたお客さんから、反ユダヤ主義が広まっていることを聞いてね。髪の毛にうまくなじむキッパーを作れないかと思ったんだ」

 キッパーとは、ユダヤ教の民族衣装で、男性がかぶるつばのない帽子のようなもの。コーレシュさんによれば、このキッパーを使えば人種差別的暴力に怯えるユダヤ教徒たちも、戒律を犯すことなく変装できる。彼のキッパーを見れば、それも納得だ。小さなウィッグにも見える直径数センチメートルのこのキッパーは、使用者一人一人の髪色や髪質に合わせてあつらえられる。人工毛のキッパーは49ユーロ(約6600円)。コーレシュさんが特別に注文する、人毛で作られたものは70ユーロ(約9500円)だ。

「キッパーやサンプルの注文が一番多いのは、フランスやベルギーなんだ。フランスで例の事件が起こって以来、僕のキッパーの入手方法に関するメールが増えた。いくつかのメディアで紹介されたのも、後押しになった」とコーレシュさんは語る。今年1月、仏パリ(Paris)で起こった風刺週刊紙シャルリー・エブド(Charlie Hebdo)本社襲撃事件の2日後、イスラム過激派の男がパリのユダヤ系食料品店を襲撃し、警察に射殺されるまでに4人のユダヤ教徒を殺害している。

 しかし、ユダヤ教社会学の専門家は、変装キッパーはキッパーをかぶる本来の目的にかなっていないのではないかと懸念を抱いている。イスラエルの国立エルサレム・ヘブライ大学(Hebrew University of Jerusalem)のギドン・アラン(Gideon Aran)教授は、「キッパーをかぶる意味とは、ユダヤ教徒を異教徒から区別し、その違いを内外にはっきり示すことだ」とAFPの記者に語った。

 購入者やビジネスを守る義務があると言わんばかりに、コーレシュさんは、今までいくつの「髪キッパー」を販売したのか、注文がいくつ入っているのかを語ろうとしない。「キッパーと同じさ。秘密だよ」

(c)AFP/John Davison