【12月29日 AFP】10月のブラジル大統領選で再選を果たしたジルマ・ルセフ(Dilma Rousseff)大統領によって、来年1月1日に発足する第2次ルセフ内閣の農牧・食料供給相に指名された有力女性政治家のカチア・アブレウ(Katia Abreu)上院議員(52)に対し、小規模農家や環境保護団体、先住民団体などが「森林破壊の女王だ」と批判を強めている。

 ブラジルは世界第7位の経済大国で、農業大国。農相の地位は高い。アブレウ氏は強い影響力を持つ農業団体、ブラジル全国農業連盟(CNA)の会長を務め、ブラジルを米国を超える世界最大の食料生産国とする方針を掲げている。

 だが、ブラジルでは大規模農業はアマゾン(Amazon)の熱帯雨林保護を主張する団体や、そこに住む先住民たちの反発を受けやすい。そうした状況を背景に、アグリビジネス(農業関連産業)の経営側出身であるアブレウ氏の農相起用が怒りを招いた。

 国際環境保護団体グリーンピース(Greenpeace)は2010年、アマゾンの森林破壊に決定的な役割を果たしたと目される国や企業に贈る「ゴールデン・チェーンソー」賞をアブレウ氏に授与している。ブラジルの先住民社会や「土地なし農民運動(MST)」は、アブレウ氏が環境を犠牲にして商業的農業を拡大しようとしていると非難している。

■ブラジル版「鉄の女」

 英紙ガーディアン(Guardian)は優雅かつ断固としたアブレウ氏を、「鉄の女」と呼ばれた元英首相のマーガレット・サッチャー(Margaret Thatcher)氏と比較したことがある。

 アブレウ氏は右派政党で政治キャリアをスタートさせた後、ルセフ大統領の労働党(PT)と協力しているブラジル民主運動党(PMDB)に合流。ルセフ大統領は実業界からの不人気や経済政策への批判といった逆風の中、10月に行われた大統領選で僅差で再選を果たし、アブレウ氏を農相に指名した。

 大農場経営主の妻だったアブレウ氏は、3人目の子どもを妊娠中の25歳の時に飛行機事故で夫を亡くし、農場経営を引き継いだ。「当時は雄牛と雌牛の区別も分からなかった」と現地誌エポカ(Epoca)に語っている。

 その後、アブレウ氏は農業界の声を大胆に主張し注目を集め、06年に上院議員に当選。さらに「大統領への立候補は計画するものでなく、運命。もしそれが運命であれば、準備はする」と政治的な野心も隠さず語っている。(c)AFP/Hector Velasco