■9割近い子どもの血液から重金属

 日干しれんが造りの小さな家々が狭い道に立ち並び、堆肥のにおいが漂うドナ・ナンカ村では、ハエや蚊がたかる側溝で子どもたちが遊んでいる。貧しい農村の人々は長年、堀井戸や手押し井戸ポンプ、池、かんがい用ため池などの水を、調理や洗濯、飲料用として利用してきた。

 隣接するテジャ・ロヘラ(Teja Rohela)村出身のバジャン・シン(Bhajan Singh)さん(30)は、生後6か月ごろから下半身不随だ。2010年に政府の役人たちが、村の家々の壁に「この村の水は飲料水には不適」だとの告知文を貼って回ったのを覚えているという。

「役人たちは一部の村に水処理設備を作った。でも、僕らの村にはまだ1つもないんだ」とバジャンさん。「早く対処して欲しい。有毒な水が何もかもをめちゃくちゃにしているんだから」

 飲料水汚染は、インドをはじめ発展途上国に共通する問題だ。急速に進む工業化の裏で、環境への配慮が後回しにされるケースが頻繁に起きている。

 中でも、パンジャブ州マルワ(Malwa)地方の村々が直面している問題はとりわけ深刻だと、村人たちの調査・治療に12年携わっているプリットパル・シン(Pritpal Singh)医師は言う。2010年に子ども149人から採取した血液サンプルから、高レベルの重金属が検出されたのだ。

「インドの研究所では血液検査の設備が整っていないため、ドイツの研究所に送って調べてもらった」と、シン医師は同州ファリコット(Faridkot)で開業するクリニックでAFPの取材に説明した。「結果はショッキングなものだった。ある程度の水銀やヒ素への暴露は想定していたが、子どもたちの血液サンプルの88%から高濃度のウランや鉛が見つかった」