【12月26日 AFP】登校前に大好きな漫画を読もうと頑張るローシャン・シン(Roshan Singh)くん(10)の両目は、血走っていた。医師からは、もうすぐ失明するだろうと言われている。「いつも最悪の場合を考えてる。怖いよ。お父さんもお母さんも、すごく心配してる」

 インド北部パンジャブ(Punjab)州の辺境、パキスタンとの国境沿いにある寂れた村ドナ・ナンカ(Dona Nanka)。落ち着かない様子で制服のシャツを引っ張りながらAFPの取材に答えるローシャン君は、毎日、村の共同井戸からくみ上げた地下水を飲んでいる。だが、専門家の指摘によれば、この地下水は非常に有害で、多くの村民の健康を損なう原因となっている。

 5月に就任したナレンドラ・モディ(Narendra Modi)首相は、インドを象徴する聖なる川ガンジス(Ganges)の環境汚染を「国家の恥」と評し、浄化を誓った。しかし、ドナ・ナンカ村のある北部でも、鉛やウランなどの有害金属に汚染された川が長年にわたり、住民に深刻な健康被害を及ぼしている。

「ここでは、車椅子での生活が当たり前になっている。これが私たちの運命なんだ」。農業を営むマウン・シン(Maun Singh)さん(65)は、失明した25歳と18歳の息子たちの傍らに座り、嘆いた。

 村の近くを流れる川は、ヒマラヤ山脈(Himalayas)にその源を発し、インドとパキスタンの国境沿いをうねるように流れるサトレジ(Sutlej)川の支流だ。専門家らは、インドの工場とパキスタンの皮革加工場がサトレジ川に垂れ流した未処理排水が、流れのゆるやかな村周辺で滞留し、土に染み込んでいるとみている。

 この汚染の責任がインドにあるのか、パキスタンにあるのか、それとも双方とも非難されるべきなのかはまだ科学的に解明されていないが、被害は甚大だ。近隣の村々では住民1200人の間に、失明や手足の変形、若年性の白髪、学習障害、皮膚病がまん延し、至るところで車椅子を見かける。

 村の小学校のロブジート・シン(Lovjeet Singh)校長は、「失明などで退学を余儀なくされる生徒がとても多い」と語り、生徒270人のうち108人が何らかの病気や障害に苦しんでいると話した。