【12月18日 AFP】そこに塹壕はなく、ケシの花も、スタジアムを飾る造花にすぎない。それでも17日、100回の節目を迎えた英国軍とドイツ軍によるサッカー親善試合には、第一次大戦のクリスマス休戦と同じ精神が確かに息づいていた。

 かつての大敵同士の親善試合は、今年は英国軍の1-0の勝利で幕を閉じ、試合後にはあらゆる場所で握手が交わされた。明日になれば、再び相手の命を狙うことになるのだなどと覚悟する必要もなく、穏やかな空気が漂っていた。

 両国軍による親善試合は、1914年のクリスマスイブとクリスマスの日に発生した、通称「クリスマス休戦」を契機に行われるようになった。その日、両国の兵士は、西部戦線の塹壕を這い出して冗談を言い合い、ウイスキーやシュナップスを飲み交わし、そして誰のものでもない土地でボールを蹴り合ったという。

 クリスマス休戦は、4年間にわたって続き、兵士、民間人を合わせて1600万人以上が犠牲になったとされる戦争にあって、人間らしさがわずかに垣間見えた瞬間だと言われている。

 英国軍のDF、ケヴ・ヘイリー(Kev Haley)は試合後、「当時に思いを馳せながら、サッカーのピッチで90分を過ごし、犠牲者をしのぶことができる。これはとても特別なことです」と話した。

 現代のユニホームとスパイクを身に着けた両軍の選手たちは、大戦当時の英国軍、ドイツ軍の制服に身を包んだ俳優たちに先導され、通路からピッチに姿を現した。

 キックオフ前には2分間の黙とうが捧げられ、オペラ歌手が「きよしこの夜(Stille Nacht)」のドイツ語の原曲を歌った。言い伝えによれば、1914年のクリスマスイブ、ドイツ軍の兵士たちは、戦闘の意思がないことを示すために、塹壕のなかからこの曲を歌ったという。

 軍との関係が深い、ロンドン(London)南西部の町アルダーショット(Aldershot)で行われた試合には、2500人の観客が集まった。

 その多くは戦闘神経症に悩まされる兵士だったが、なかには1966年のW杯イングランド大会(1966 World Cup)決勝で、イングランドが西ドイツを破った際の代表メンバー、ボビー・チャールトン(Bobby Charlton)氏らも招待客として姿を見せていた。

 ヘイリーによれば、両軍は試合後にともに酒を酌み交わし、1914年の休戦の際、国の枠を超えて生まれた友情を呼び覚ますのだという。

「歌ったり、ジョークを言い合ったり、とにかく和気あいあいとしたいい雰囲気なんです」とヘイリーは言う。

 一方、試合に敗れたドイツ軍の選手、ミラド・オマーキエル(Milad Omarkhiel)は、厳粛さと失望が入り混じった感情を抱いていた。

 オマーキエルは、「試合には負けたけど、今日はそれは重要じゃない。大切なのは、親善試合を開催したという事実と、記事を読んだ人たちが、この試合の歴史(的な重要性)を知ってくれることです」とコメントした。(c)AFP/Katherine HADDON