【12月11日 AFP】ベビーカーと抗議メッセージを書いた横断幕のバランスを取りながら行進する若い母親たちのグループは、家賃高騰と低所得世帯の問題に苦しむ英国の首都ロンドン(London)で、住居を求める闘いの最前線に立っている。

 全員が25歳に満たないこの女性たちは、住宅占拠と立ち退き反対運動を繰り広げ「フォーカスE15マザーズ(Focus E15 Mothers)」と名乗っている。ロンドン東部ニューハム(Newham)地区の、12年のロンドン五輪のメーン会場となったスタジアム近くにある、ホームレス状態の人々のための支援宿泊施設「Focus E15」から立ち退くよう通告されたとき、この施設の名前をグループ名にして結成した。同地区は最近再開発されるまでロンドンの最貧困地区の一つだった。

 サム・ミドルトンさん(21)は「その時は妊娠していて、出産予定日は立ち退き期限の前日だった」と話す。パートナーの暴力から逃れたミドルトンさんは、他の街ならば引っ越し先があったが、生まれ育ったロンドンでは一切見つけられず宿泊施設に住んでいた。「彼らは貧しい人々をスラムに追い込もうとしている。これは(民族浄化ならぬ)社会的浄化だ」と非難する。

 ミドルトンさんは今、1歳の息子と週249ポンド(約4万6000円)のアパートに住んでおり、賃貸料は国の福祉でまかなわれている。しかし契約は3月までで、その先はどうなるかは分からない状況だ。ミドルトンさんたちが抗議行動で要求しているのは、安全で手ごろな家賃で住める母親と乳児たちのための住居だ。

■記録的な賃貸料上昇ペース

 ミドルトンさんたち母親のグループは9月、市が所有する空家の集合住宅を一時占拠し、窓から「ソーシャル・クレンジングではなく、ソーシャル・ハウジング(社会的浄化ではなく公営住宅を)」、「ここにいる人々は家を必要としています」などと書いた横断幕を垂らした。英国はロンドン東部の再開発を約束して12年の五輪開催を勝ち取った。しかし、それは地域のより貧しい層のニーズを考慮せずに行われたのだと、地元住民や運動家は批判している。

 ニューハム地区は、区内に入居待機者が1万6000人もいる状態だ。しかし、公営住宅の取得権を入居者に与え、割引価格で払い下げる購入権制度(Right to Buy)を政府が支持しているために、公営住宅の在庫が減ってしまったと指摘している。この制度で入居者に払い下げられた住宅のうち35~45%は民間の不動産業者に転売される。業者は短期間契約でこれを貸し出し、絶えず賃貸料を値上げしている。昨年、平均賃金の上昇ペースと比較した賃貸料の上昇ペースは、ロンドン全体で2.8倍、ニューハムでは5.6倍だった。

■住宅難民の一方で建設ラッシュ

 英統計局によれば、世界の富豪たちに人気の高い投資先であるロンドンの住宅不動産は現在、1物件当たりの平均価格が50万ポンド(約9300万円)を超えている。その一方で、英国国民の平均賃金はインフレについていけず、いまだ金融危機以前を下回り、生活水準は押し下げられている。

 保守党のボリス・ジョンソン(Boris Johnson)ロンドン市長は、11~15年の間に5万5000件の「手ごろな価格の」賃貸住宅を用意すると約束した。しかし、市当局のいう「手ごろ」とは「現地相場」の8割程度であり、実際には「手が届かない」との批判が上がっている。

 ロンドン大学バークベック・カレッジ(Birkbeck, University of London)で都市研究について教えているポール・ワット(Paul Watt)氏は「見上げれば、豪華な高層ビルを建設中のクレーンが空を埋め尽くしているのに、普通のロンドンっ子が本当に手の届く住宅を見つけることが困難になる一方だ」と述べる。

 公営住宅を増やし家賃規制を強化しなければ、社会的、民族的に多様な英国の首都が、低所得者を郊外へ閉め出す都市になる恐れがある。ワット氏は「価値観の問題だ。中流階級と富裕層が占める市の中心部を良しとするならば、これは良い政策だと言うだろう。これは、あなたがどういう街を望むかによる」と語った。(c)AFP/Naomi O'LEARY