【12月4日 AFP】イスラム過激思想に走り打倒欧米を決意した若者たちを、再び転向させるすべはあるのだろうか──デンマーク第2の都市オーフス(Aarhus)がとった方法は、そうした若者と共にカフェや図書館に行き、サッカーについて語り合うというものだ。

 これは、イスラム教徒の若者たちから急進的思想を取り除く革新的なプログラムの指導員のマッズさんが用いている極めて穏健な対処法だ。強硬に臨めば若者たちは暴力的手段に走りかねない。

「私がいま指導している若者は、真剣にシリアへ行きたがっている」と30代のマッズさんは語る。「彼とイスラム教を切り離すことが目標なのではない。彼がイスラム教を信仰すること自体に問題はないからだ。肝要なのは信仰におけるバランスの確保だ」

 デンマークは豊かで調和ある社会が高い評価を受けている国だ。一方、英誌「エコノミスト(Economist)」によれば、西側諸国ではシリア入りした戦闘員の人口における割合が、ベルギーに次いで2番目に高い。

 マッズさんが指導する若者たちは、5軒中4軒までもが移民世帯という陰鬱(いんうつ)で乱雑な住宅地ジェルバルケン(Gellerupparken)などで育っている。

 ジェルバルケンは裕福なデンマークのイメージからはほど遠く落書きだらけだ。コンクリートの建物は崩れかけ、あちこちに窓ガラスの破片が散乱している。近隣には、イスラム教スンニ派(Sunni)過激派組織「イスラム国(Islamic StateIS)」を非難することを拒否したGrimhoejモスク(イスラム礼拝所)も存在する。

 人口32万4000人のオーフスから30人もの人々がシリアでの戦闘に向かった理由が、ここから読み取れるかもしれない。

■シリアで戦うデンマーク人、100人

 デンマークの情報当局によると、シリア内戦に加わったデンマーク人は推定約100人。うち少なくとも16人が死亡し、およそ50人が帰国したとされている。

 危機感を募らせたデンマークは、戦闘員となる可能性がある若者たちを対象にした更生プログラムを開始した。この中で、シリアから帰国した若者たちへの支援については賛否が分かれている。

 シリアから帰国したある若者は「普通のデンマークの若者たちにとってはかなり異常な出来事」を目撃し「震撼(しんかん)」していたとマッズ氏は語る。2人は、サッカーについて話し合うことからリハビリを始めた。

 マッズ氏の真の目的は、彼がシリアへ戻ることを阻止し学業に復帰させることだった。「重要なその目標は達成できたよ」とマッズさんは、ちょっと誇らしげに語った。

 これはデンマークの二面作戦の一面だ。一方では急進化した若者の出国を禁止し、違反すれば身柄を拘束するが、他方では予防措置にも力を注いでいる。

 オーフスは2007年にデンマークで初めて急進思想対策プログラムを立ち上げた都市だ。プログラムへの申請は、対象者の家族や友人、警察官、ソーシャルワーカーらが行う。対象者にはカウンセリングや指導プログラムが提供され、雇用や教育機会、住宅探しでも支援を受けることができる。

「僕がいま支援している若者には、パートの求人の応募書類作成を手伝って、提出にも付き添ったよ」とマッズさんは語った。

■年月を要するプログラム

 だが、マッズさんたちの更生プログラムは、過激派との戦いは法廷で行うべきと信じる政治家たちから繰り返し非難されてきた。プログラムの職員が急進化の原因の一つは差別にあると指摘した際には、一部の政治家から激しい反発もあった。

 シリアで戦う戦闘員が欧州で最も多いベルギーでは、イスラム教集団の46人が、若者たちをシリアに送りこんだ容疑で起訴された。だが対照的にデンマークで訴追された者は、まだ1人もいない。専門家によれば、戦闘目的でのシリア入国は対テロ法違反の対象となる可能性はあるが、戦時下のシリアでは、その証拠確保が困難なためだという。

 オーフスでは、プログラムが立ち上げられてから、これまでに約130件の問い合わせがあった。大半は助言ですむものだったが、15件で指導プログラムが提供され、そのうち8件が成功裏に終わった。7件は現在も指導が進行中だという。

 学校や警察などの犯罪防止対策責任者のToke Agerschou氏は更生プログラムを離婚した場合に例えた。「すぐに癒えることはほとんどない。何か月も何年もかかることもある」(c)AFP/Sören BILLING