【11月14日 AFP】米連邦捜査局(FBI)が1960年代に公民権運動の指導者だったマーティン・ルーサー・キング(Martin Luther King Jr.)牧師に送った、罵詈雑言に満ちた書簡の全容が、初めて明らかとなった。

 書簡は便箋1枚で1964年にキング牧師に送られたもの。キング牧師を「完全な詐欺師で世の中の荷物」「邪悪で異常な野獣」などと罵り、不倫関係について暴露すると脅しており、キング牧師を自殺に追い込むことを狙ったものとみられる。

 この書簡はこれまでにも部分的によく引用されてきたが、12日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)が、女性の氏名だけを伏せたほぼ全文を掲載した。これにより、当時J・エドガー・フーバー(J. Edgar Hoover)長官が率いていたFBIが、キング牧師と公民権運動に対して抱いていた敵意が露わになった。

 NYタイムズ紙によると書簡を書いたのはフーバー長官の側近だったFBI幹部ウィリアム・サリバン(William Sullivan)氏で、キング牧師の不倫の証拠とされる録音テープとともに送り付けられたという。

 手紙の書き出しは「汚らわしい、異常な野獣よ、よく聞け。おまえは録音されている。おまえの浮気行為、乱交ぶりは過去の過去まで録音されている。これはそのほんの見本だ」と始まり、さらに「おまえに残された道は一つだけだ。分かっているだろう」と続き、自殺するよう暗に迫っている。同紙によると、これを受け取った際、キング牧師は友人らに、誰かが自分に自殺させたがっているようだと語ったという。また公民権運動内部の人物から送られたように見せかけるために「われわれニグロ(黒人)は」といった言い回しも使われている。

 この書簡にはフーバー長官下のFBIがいかに偏執的だったかがにじみ出ている。フーバー長官はキング牧師が共産主義の影響を受けていると考えていた。一方、キング牧師は「分離平等政策」が取られていた米国南部で黒人に対する暴力を止めることができていないとして、FBIを糾弾していた。

 1963年に有名な「私には夢がある(I Have a Dream)」の演説をし、64年の公民権法制定を導いたキング牧師は68年に暗殺されている。(c)AFP