【11月10日 AFP】先月、太陽系のかなたからやってきた彗星(すいせい)が火星近傍を通過した際、予想外に激しい流星群が発生し、火星上層大気の化学的性質が一時的に変化した。米航空宇宙局(NASA)が7日、発表した。

 オールトの雲(Oort Cloud)として知られる太陽系はずれの領域から飛来したこのサイディング・スプリング(Siding Spring、別名C/2013 A1)彗星は、10月19日に地球の隣の惑星である火星のすぐそばを秒速56キロの速度で通過。この時の様子は、多数の人工探査機が詳細に観測している。

 NASAの惑星科学部長、ジム・グリーン(Jim Green)氏は「この種の事象が起きる確率は800万年に一度とみられている」と語る。

 同彗星は火星から約13万9500キロの距離を通過する際、NASAの予想よりもはるかに多量の塵(ちり)を放出した。事前の試算では、その総重量は数千キログラムに及ぶとされていた。

「サイディング・スプリング彗星の塵は、火星の上層大気に激突して巨大な濃い電離層を形成し、上層大気の化学的性質を文字通り一変させた」とグリーン氏は記者団に述べた。火星の高高度上空にある電離層内で発生したこの付加的な荷電粒子(イオン)の層は、一時的なものだった。

 NASAは、流星群の破片と大気中のこのような著しい変化とを科学的に関連付けることができたのは今回が初めてだとしており、さらなる研究を通じて長期的な影響についても解明されることを期待している。

■「驚くほど美しく見えただろう」

 NASAの火星周回探査機メイブン(MAVENMars Atmosphere and Volatile EvolutionN)により得られたデータでは、今回の最接近の結果として発生した流星群は1時間あまり続いた可能性が高いという。

 また、メイブンに搭載された科学機器は、ナトリウム、マグネシウム、鉄などを含む8種類の異なる金属イオンを検出した。一部の専門家らが「宇宙の雪玉」と形容するオールト雲からの彗星をめぐってこのような測定が行われたのは今回が初めてだ。

 NASAによると、流星群の発生直後に高高度の大気中でマグネシウムイオンと鉄イオンからの非常に強い紫外発光を(メイブンは)観測したとされる。「地球上で起きた最も激しい流星嵐でも、これほど強力な反応は生じなかった」

 メイブンに搭載された紫外線撮像分光装置の分析機器部門を率いる米コロラド大学ボルダー校(University of Colorado at Boulder)のニック・シュナイダー(Nick Schneider)氏は、人間が火星にいたとすると、空に黄色く輝く光が見えたかもしれないと話す。

 その光景について「人間の目には本当に驚くほど美しく見えただろう」と説明する同氏。記者団に対して「おそらく1時間に数千個の流れ星」が発生したと考えられる語り、流星群発生後には火星大気上層にナトリウムの層が残り、これによって黄色の残光が生じた可能性が高いと付け加えた。(c)AFP/Kerry SHERIDAN