【11月4日 AFP】中米各地の街の路地を血で染めた「マラス」と呼ばれるギャンググループの暴力に満ちた裏社会にホセ(Jose)さん(26)が足を踏み入れたのは13歳の時だった──。

 残忍な「小集団(Urban tribes)」に加わった何万人もの若者たちと同様、ホセさんの日焼けした肌には、彼の運命を象徴するタトゥーが彫られている。とはいえ彼のタトゥーは、全身にタトゥーを施したその他多くのメンバーに比べると目立たない。

 エルサルバドルの首都サンサルバドル(San Salvador)でのAFPの取材に対し、かつて所属していたギャンググループ「マラ・サルバトルチャ(Mara Salvatrucha)」は「実家」のような存在だったと語るホセさん。「ギャンググループは家族のようなものだ」と説明した。ホセさんは、身の安全を確保するために偽名を使っており、現在は福音主義派のキリスト教会に加わって勉強することで、自分自身の過去から逃れようとしている。

 かつて麻薬売買や恐喝に手を染め、さらに殺人の罪により刑務所で服役していたこともあるというホセさんは、「そうしたことに関わっていた頃、泣き叫ぶ子どもや(敵対するギャングメンバーの)妻たち、そして父親や母親を置き去りにすることがどういうことなのか考えていなかった」と話す。

 複雑に組織化された犯罪ネットワークを中米各地に張り巡らせてきたギャンググループのメンバーらにとって、死はいつも隣り合わせの存在だ。

 世界で最も殺人事件の発生率が高い上位5か国のうち、中米の4か国がランクインしている要因についても、ギャングたちの暴力に満ちた「社会」に負うところが大きい。

 なかでも最も凶悪とされるギャンググループは、MS-13との別称を持つマラ・サルバトルチャと「バリオ18(Barrio 18)」と呼ばれる組織で、それぞれ独自の言葉やルール、行動規範を持ち、縄張りを支配するためにいかなる容赦もしない。またこれら組織の内部には階層的組織構造が設けられており、それぞれが「クリカ」と呼ばれるグループに分けられている。

■暗号を駆使するギャングたち

 こうしたギャンググループを特徴づけるものとして挙げられるのが、しばしば全身に彫り込まれたタトゥーと、「見ろ」「聞け」「黙れ」といった意味を持つグラフィティだ。だが、当局による追及の手から逃れるため、そうした手段を用いることはどんどん少なくなっている。

 エルサルバドルの公共保安アカデミー(Public Safety Academy)で校長を務めるハイメ・マルティネス(Jaime Martinez)氏は「彼らは書き言葉や話し言葉、そしてジェスチャーによる暗号を使い、それぞれが独自の手段でコミュニケーションを取っている。それは彼らのサブカルチャーの一端をなしていると同時に、組織の明確な特色をも際立たせている」と説明する。

 専門家らは、こうした暗号に隠されている意味を解読しようと試みている。例えば、18や13、MSといったタトゥーは、それぞれのギャングに属していることを示し、黒い涙は殺害した敵の数、十字架は死んだ仲間たちの数、道化師は喜びや悲しみ、頭蓋骨は死に対する祝意──といった具合に多くの意味が隠されている。

 ホンジュラスで反社会的勢力の取り締まりを担当するある警察官は、匿名を条件に取材に応じ、「体に刻まれた3つのドットは、ギャングたちの人生を表している。病院、刑務所、そして墓地だ。グラフィティは縄張りを示すものとなっている」と説明した。

 グループには女性のメンバーも存在しており、恐喝や現金の輸送などに携わるという。そして彼女たちは、自らの体にボーイフレンドの名前のタトゥーを彫らなければならない。