■10万人当たりの自殺者数は21人

 つらい仕事で疲れ果てたサラリーマンの犠牲は、重大な事態を招き得る。厚生労働省は毎年、過労死の統計を取り続けている。キングストン教授は、「仕事のし過ぎとうつ、またアルコール依存症とうつの間には明確な相関関係があるのに、社会は長い間、こうした問題を否定してきた。状況が変わったのは過去10年ほどのことで、人々は精神衛生の問題への対処を怠ることが、高い自殺率の大きな要因であることを認識し始めた」と指摘する。

 経済協力開発機構(OECD)の統計によると、10万人当たりの自殺者数は加盟国平均が13人未満なのに対し、日本では21人を超える。キングストン教授は「今日のサラリーマンたちはおそらく、雇用の安定が危機に瀕している状況の中で、絶滅の危機に直面し途方に暮れているトライブのような存在になってしまったのではないかと感じている。超過勤務にも手当がつかなくなり、収入は減り、ライフスタイルも切り詰められている」と話す。

 大酒を飲み、長時間労働をこなすというサラリーマン・カルチャーは、日本で女性の労働人口が比較的少ない理由の一つとして挙げられている。安倍晋三(Shinzo Abe)首相は、女性の就業者数の増大を掲げているが、母親にも残業が求められ、子どものために退勤できないのであれば、いくら法律を作っても効果は望めないとの批判もある。

 騒ぎながら狭いエレベーターに乗り込んだ千葉さんたちは、もう一杯飲むことに決めた。銀行に勤務する濱田清さん(54)は居酒屋で砂肝をかじり、笑いながら「飲んでリラックスできる」と話す。「仕事は前からハードだったけど、もっとハードになっているよね。家族より会社というのは変に日本的じゃないかな」

(c)AFP/Alastair HIMMER