【10月23日 AFP】現生人類ホモ・サピエンス (Homo sapiens) の骨から採取された、これまでで最も古いDNAを解読したとの研究論文が、22日の英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された。現生人類による世界の「大移動」を解明する手掛かりとなる大きな成果だという。

 ドイツ・マックス・プランク進化人類学研究所(Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology)の遺伝学者で、ネアンデルタール人(Neanderthal)研究のパイオニアでもあるスバンテ・ペーボ(Svante Paabo)氏率いる研究チームによると、研究の対象となった骨は、2008年にシベリア(Siberia)西部を流れるエルティシ川(Irtyush River)の川岸で偶然発見された大腿(だいたい)骨で、約4万5000年前に死んだ男性のものだという。

 この古代の骨のコラーゲンから抽出したゲノム(全遺伝情報)には、ネアンデルタール人由来の微量の痕跡が含まれていた。現生人類の近縁種であるネアンデルタール人は、ユーラシア(Eurasia)大陸でホモ・サピエンスと共存し、その後、こつ然と姿を消した。ネアンデルタール人はホモ・サピエンスと混血し、非アフリカ系現人類のゲノムに約2%の痕跡を残したことが、これまでの研究で判明していた。

 今回の発見は、現生人類のいわゆる「出アフリカ」説に大きく関係している。同説では、人類は約20万年前に東アフリカでホモ・サピエンスに進化し、その後アフリカ大陸を出て世界各地に広がったとされている。ネアンデルタール人とホモ・サピエンスが混血した時期を特定することで、ホモ・サピエンスがユーラシアから南アジア、そして東南アジアへと拡大した「重要な段階」の時期も示されると思われる。

 研究チームは、この骨に含まれていたネアンデルタール人由来のDNAがアフリカ系以外の現人類よりもわずかに多かったこと、そしてその形状が比較的細長かったことを突き止めた。現人類のゲノムに含まれるネアンデルタール人由来のDNAは、何世代にもわたる複製の結果として、細かく分割され、極めて小さな区分に分散して存在する。

 見つかった相違点は、「分子時計」を構成するための手掛かりとなる。分子時計は、数千年にわたって発生した変異に基づいてDNAの年代を推定するものだ。そして研究チームは、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの混血が起きた時期について、シベリアの男性が生きていた時代の7000年~1万3000年前、すなわち今から6万年ほど前と推定した。

 英ロンドン自然史博物館(London Natural History Museum)のクリス・ストリンガー(Chris Stringer)教授は、この研究結果からホモ・サピエンスが南アジアに向かった時期を大まかに推定できると解説記事で指摘している。

 現在のオーストラレーシア(オーストラリア、ニュージーランド、周辺の島々の総称)の人々がネアンデルタール人由来のDNAを持っているのは、彼らの祖先がネアンデルタール人の居住地域へと進入し、その地の人々と交配したからだという。

 ストリンガー教授は「ユーラシア人と同様にネアンデルタールのDNAが混入しているオーストラレーシア人の祖先は、より現代に近い時代にネアンデルタール人が暮らす地域へと入り、分散行動に加わっていたことが考えられる」とプレスリリースで述べている。(c)AFP/Richard INGHAM