活動家やトランスジェンダーの人たちによれば、マレーシアも昔は穏健なイスラム国家で、寛容な国であった。だがさまざまな要因が絡み合い、保守的なイスラム教徒らが勢力を増し始めた。

 1982年には、同国のイスラム最高機関、全国ファトワ評議会(National Fatwa Council)が、非イスラム的だとして性別適合手術を禁止。以来、当局はトランスジェンダーや同性愛者に対する締め付けを厳しくしているとの声が上がっている。同性愛者の権利向上を求める祭典は2011年に禁止された。

 イスラム穏健派を自称するナジブ・ラザク(Najib Razak)首相も近年、同性愛者やドランスジェンダーの権利を求める運動は社会の規範から逸脱した行為だと、繰り返し公言している。今年6月には、マレーシア南部の個人宅で開かれた結婚パーティーに警察が踏み込み、トランスジェンダー女性16人が逮捕され、1週間の拘置と罰金を科された。

 トランスジェンダーの人たちは、「道徳的価値観」に関する「カウンセリング」に送られることもある。イスラム教徒のトランスジェンダー活動家、ニシャ・アユブ(Nisha Ayub)さんは、2000年に逮捕されて拘留されたとき、看守に連れ回され、男性の囚人に胸を見せるよう強制された。囚人たちから性的暴行も受けたという。「私たちは特別な権利を求めているわけではない。平等な権利を求めているだけ」と、ニシャさんは訴える。

 性別適合手術を受けた人々は、法的な名前や性別を変更することができず、公共サービスを受けようとする際、役人たちによる悪夢のような対応を経験する。トランスジェンダー女性らは、特に首都クアラルンプール(Kuala Lumpur)ではレストランや売店などで働く姿がよく見られるが、受け入れられるための代償は、ありのままの自分の否定だ。ズボンやシャツなど中性的な服を着て、長い髪は頭の後ろで控えめに結んでいる。