【10月3日AFP】アリアナさん(30)は6月のある夜、帰宅直後に家に踏み込んできたイスラム法の執行者らによって、女装を理由に身柄を拘束された。

 取材に仮名で応じたアリアナさんは、男性として生まれたが性自認は女性のトランスジェンダー。イスラム教徒が大半を占めるマレーシアで、自分たちに対する迫害が増えていると訴える多くの人々の一人だ。

 アリアナさんは数時間にわたる拘束の間に、手荒に扱われ、自白を強要され、罰金を科された。「男物の服を着ると、嘘をついているような気持ちになる」と、髪を赤茶色に染め、濃い化粧をして売春婦として働く彼女は言う。

 マレーシアでトランスジェンダーは珍しくなく、性別適合手術を受けている人もいる。だがその生活は、トランスジェンダーに寛容な隣の仏教国タイとはまったく異なる。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(Human Rights WatchHRW)は先週発表した報告書で、マレーシア社会での疎外や差別、嫌がらせ、性的暴行、当局による連行などについて指摘。同国はトランスジェンダーの人々にとって最も住みにくい国の一つと結論付けている。

 同国で同性愛は法律で禁止されており、同性同士の性行為は「自然に反する」として、連邦法で最大20年の禁錮刑が科される。活動家らによると、イスラム法の「純潔」に関する州の法律では、異性の服装をすることも犯罪とされており、3年間の禁錮刑や罰金を科されることもある。

■声を上げる当事者たち

 4年前に逮捕されたトランスジェンダー女性3人が現在、こうした法律に果敢にも挑戦している。3人はこのような法律が差別的で憲法に違反するとして、南部ネゲリセンビラン(Negeri Sembilan)州の裁判所に訴えを起こした。

 裁判の行方は読めないが、活動家たちは訴えが認められれば、他の州でも法律の見直しにつながると期待している。原告女性の一人は「私は女性のように振る舞う男性ではない。女性です」「(裁判が)うまくいくことを願っています。ずっと待ち続けてきたのですから」と語った。判決は11月7日に出る予定だ。