【10月1日 AFP】携帯端末のプライバシーをめぐり、新たな戦いが起きようとしている──米グーグル(Google)とアップル(Apple)が携帯端末の暗号化強化を発表したことが、米法執行機関の批判の口火を切った。

 IT機器がプライバシー保護の暗号化技術を搭載するべきか否かという議論には、長い歴史がある。暗号化技術を搭載していると、法執行機関が時間との競争になる捜査活動で、これらの機器にアクセスするのが困難になる。

 米連邦捜査局(FBI)のジェームズ・コミー(James Comey)長官は先週、この議論を再燃させ、スマートフォン(多機能携帯電話)に鍵をかけるというアップルとグーグルの新たな措置を非難した。両社の新方式では、アップルやグーグルでさえ、スマートフォンからデータを取り出すことのできる鍵を持たない。

「私が懸念するのはこれらの企業が、法を超越した場所に自らを置くことを人々に認めるものを、あからさまにマーケティングしていることだ」とコミー長官は語り、たとえば子どもの誘拐やテロなどの事件で法執行機関が仮に令状を取ったとしても、タイムリーなアクセスを拒否される恐れがあると警告した。

 同様の見解を、元FBI犯罪捜査部門責任者のロナルド・ホスコ(Ronald Hosko)氏も米紙ワシントン・ポスト(Washington Post)への意見記事で述べている。ホスコ氏は、残虐な誘拐事件で捜査当局が、スマートフォンのデータを用いてすんでのところで被害者の生命を守り、事件を解決した事例を引き合いに出した。

「ほとんどの捜査は一つの情報源からの情報だけには頼らない。スマートフォンであっても」とホスコ氏は述べる。「だが捜査のパズルの全ての重要なピースがなければ、犯罪者たちやわが国に対する破壊活動を計画する者たちが自由の身になるかもしれない」

■「暗号戦争2.0」

 プライバシーと暗号化の問題を追う観察者らによると、この議論は以前にも存在していた。

 1990年代半ば、インターネットが力を持ち始めていたころ、政府は、あらゆる暗号化ソフトウエアやハードウエアのデジタル「鍵」へのアクセスを要求した。だがこの要求はあきらめられた。

「これは暗号戦争2.0だ」と、デジタルの権利擁護団体「民主主義・技術センター(Center for Democracy and TechnologyCDT)」のジョセフ・ホール(Joseph Hall)氏は語る。

 現在の「(90年代との)最も大きな違いは、電話がますます深くパーソナルなものになり、1990年代のデスクトップ(コンピューター)よりも、日常生活や交流(の情報)をはるかに多く収めている」ことだとホール氏は指摘する。

 またホール氏は、法執行機関にアクセス権限を渡すことで企業に「エンジニア上のぜい弱性」を許すことになり、ハッカーらによって悪用される恐れがあると主張する。「裏口から入ってきた人が善人か悪人かを見分ける方法はない」

 電子フロンティア財団(Electronic Frontier FoundationEFF)のシンディー・コーン(Cindy Cohn)氏は、FBIが1995年以来、この論理的不備のある主張を変わらずし続けてきたと指摘する。

「この映画は前に観た」とコーン氏。「消費者の暗号化利用の規制と管理は2001年に公式に宣言されたゾッとする提案だ。だがまるでゾンビの様に、それが墓からよみがえってきている。同じ破滅的な欠陥を備えて」とコーン氏はブログで述べた。(c)AFP/Rob Lever