■スター神話の中にある「生誕2万日目」の日常

 映画は物語形式を拒絶し、54歳と55歳の間で「生誕2万日目」にあたる普通の1日を迎えたケイブの映像から始まる。現在の妻でモデルのスージー・ビック(Susie Bick)と暮らす英ブライトン(Brighton)の道で愛車ジャガーを走らせるケイブは、後部座席に座る同じ豪州出身のシンガー・ソングライター、カイリー・ミノーグ(Kylie Minogue)に向かってタクシーの運転手のように話し掛ける。ミノーグはケイブの「忘却される恐怖」をなだめる。

 さらにケイブと暴力的な映画を見ながらピザを食べる双子の息子たち、バッド・シーズの元メンバーで盟友のウォーレン・エリスなどが登場。ケイブは最初の性体験や、ウラジーミル・ナボコフ(Vladimir Nabokov)の小説 「ロリータ(Lolita)」を父親に読み聞かせられたことについて素っ気なく語る。そして妻ビックとの出会いは、自分の人生における「性的データの尽きることのない滴り」の絶頂だと表現する。

 映画はジェーン・ポラード(Jane Pollard)氏とイアン・フォーサイス(Iain Forsyth)氏が共同監督で手掛けた。フォーサイス氏は「ロック・スターの真の姿を暴こうとする音楽ドキュメンタリーによくあるこだわり」をあえて避けようとしたつもりだと語った。「神話もとにかくストーリーの一部だ。実際、神話こそストーリーだ」(c)AFP/ Shaun TANDON