■「誰も知らないパリ」を紹介

 バンサンさんのツアーではパリ20区を中心に回る。ここは昔から労働者階級や移民が多く住むエリアで、観光客にはほとんど知られていない。「ガイドのためにリサーチを始めたら、20区は実に興味深いところだと分かった。人々のぬくもりがある場所だ」と、案内役となった経緯について観光客から質問され、バンサンさんはそう答えた。

 こうした交流こそ、ホームレスの人々が自信を取り戻し路上生活から脱出する糸口になるとして、アルテルナティブ・ユルベンヌは強く推奨している。

 バンサンさんは、1871年に蜂起したパリ市民によって樹立され、政府軍に鎮圧されるまで約2か月間にわたり市政を担った自治政府「パリ・コミューン(Paris Commune)」における20区の役割から、ここで見られる最先端のアートシーンまで、あらゆることを教えてくれる。ツアー終了後、オーストラリア人観光客のティムさんは「とても面白かった。バンサンはいい人だ。プライベートな質問にもきちんと答えてくれた」と話した。

 開始当初こそさまざまな問題が起きたという事業だが、回数を重ねるごとに洗練され、今では毎週金曜~日曜の3日間、定期的に実施されている。同社は公式ホームページも開設しているが、ツアーの評判は主に口コミで広がっている。

 バンサンさんの時給は10ユーロ(約1400円)で、週10時間働く契約だ。2月以降、約200人の観光客を案内してきたが、何より重要なのは、この仕事が社会復帰へのステップになっていることだ。

 夏の観光シーズンが終わったら、バンサンさんはキャリア支援のトレーニングコースを受講することになっている。定職に就いて、路上での生活から抜け出すために。(c)AFP/Thibault MARCHAND