【8月9日 AFP】睡眠不足の宇宙飛行士が睡眠薬に頼り過ぎると、リスクの高い環境での注意力が落ちる恐れがあるという研究論文が8日、英医学専門誌「ランセット・ニューロロジー(Lancet Neurology)」(電子版)に掲載された。

 研究では米スペースシャトルの26回のフライトに関わった64人と、国際宇宙ステーション(International Space StationISS)への13回のミッションに関わった21人の宇宙飛行士から集めたデータを分析した。研究は米航空宇宙局(NASA)の資金で行われた。米国とロシアの方針の違いにより、ロシア人宇宙飛行士は対象に含まれていない。

 アクティグラフという腕時計のような装置で睡眠と覚醒のサイクルを観察するとともに、宇宙飛行士らは自らの注意力と睡眠の質について毎日記録を付けた。地上での4000回以上、宇宙での4200回以上の睡眠のデータが集まり、軌道上の睡眠に関するこれまでで最も大規模な調査となった。

 データから、打ち上げの約3か月前から始まる飛行前の訓練期間中から宇宙飛行士たちは慢性的な睡眠不足になっていることが分かった。

 スペースシャトルのフライト、ISSでのミッションのいずれも飛行士らの平均睡眠時間は6時間弱で、1日8.5時間というNASAのガイドラインを大幅に下回っていた。記録された睡眠のうち連続7時間以上のものはスペースシャトルで12%、ISSで24%にすぎなかった一方、任務終了後はそれぞれ42%と50%に増えていたことも分かった。

■宇宙飛行士の約75%が宇宙で睡眠薬を服用

 論文は宇宙飛行士の約75%が宇宙滞在中に一般的に使われている睡眠薬を服用していたことも示した。米ハーバード大学医学大学院(Harvard Medical School)ブリガム・アンド・ウィメンズ病院(Brigham and Women's Hospital)のローラ・バーガー(Laura Barger)氏は、睡眠不足はパフォーマンスの低下につながるので適切な睡眠を取る対策が必要だと述べた上で、睡眠薬を服用すれば緊急事態を知らせる警報で眠りから覚めた時に最良のパフォーマンスを発揮できない恐れもあると指摘した。

 90分ごとに日の出と日の入りが繰り返される軌道上は睡眠をとるには過酷な環境だ。スペースシャトルでは寝袋、ISSでは個人区画で眠る宇宙飛行士たちは光と音が睡眠を妨げると証言していたが、ISSに音と光を遮断する「睡眠ステーション」が設置された後も睡眠障害は続いたため、無重力状態が睡眠を妨げている可能性もあると考えられている。

 今回の論文は、火星への有人飛行も検討されている中、活動時間のパターンを変えたり特定の波長の光を計画的に浴びたりして自然な眠気を催させるなど、宇宙でよく眠る方法を編み出すことは不可欠だと指摘した。(c)AFP/Richard INGHAM