【8月6日 AFP】脳の働きを高めるコンピューターゲームは、一部の高齢者が発症する重度のうつ病に対する治療で、抗うつ薬と同等かそれ以上の有効性を示す可能性があるとの研究論文が、5日の英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に掲載された。

 米国と中国の専門家らからなる国際研究チームが発表した論文によると、抗うつ薬の効果がみられなかった60歳~89歳の被験者グループに、脳の健康を増進することを目的に開発されたコンピューターゲームを使ったプログラムに4週間取り組んでもらったころ、被験者らはすっかり元気を取り戻したという。

 プログラムは、老化した脳が激しい訓練によって再生可能であり、失われた学習機能や記憶機能の復帰、さらには意思決定機能を向上させることで、うつの症状を軽減できるとする説を検証するために開発されたという。

 特定の知的機能に問題がみられる場合、抗うつ薬に対する反応も不十分になることが、これまでの研究で判明している。

「従来の抗うつ治療は、著しい進歩がみられるにもかかわらず、いまだに多くの高齢者がうつ状態で苦しんでいる状況を改善できていない」と論文は指摘する。

 抗うつ薬はその効果がみられるまでに時間がかかる場合が多く、結果も不安定。また、症状の緩和がみられるのは全患者の3分の1ほどだ。

 研究チームは、被験者11人に4週間にわたってコンピューターゲームを使った訓練プログラムを実行してもらい、うつ病のレベルと脳機能に向上がみられるかを検証した。

 検証で得られた結果は、別の研究で抗うつ薬の「エスシタロプラム(escitalopram)」を12週間投与された高齢者33人のグループの検証結果と比較された。エスシタロプラムは、「レクサプロ(Lexapro)」や「シプラレックス(Cipralex)」という商品名で販売されている。

 2つの検証結果を比較したところ、コンピューターゲームで脳を柔軟にする訓練は、うつ症状の軽減において、エスシタロプラムと同等の有効性を示すことが示唆された。「だがそれは12週間ではなく4週間で(示された)」と論文の執筆者らは記している。

 論文の共同執筆者の1人、米ワイルコーネル大学医学部(Weill Cornell Medical College)老年精神医学研究所(Institute of Geriatric Psychiatry)のサラ・モリモト(Sarah Morimoto)氏は、AFPの取材に「実際に全体の72%がうつ症状の完全寛解を得た」と説明した。

 さらにコンピューターゲームでの訓練は「(脳の)実行機能の測定値において、エスシタロプラムを上回る改善を示した」と論文は指摘している。

 ただ今回の研究については、サンプルの規模が小さいことと、同時に研究対象とする比較グループが存在しないことなどが限界事項として挙げられており、追跡研究を行う必要があるとしている。(c)AFP