【7月22日 AFP】後天性免疫不全症候群(AIDS、エイズ)を引き起こすヒト免疫不全ウイルス(HIV)に近いサル免疫不全ウイルス(SIV)を使った実験で、ウイルスは体内に侵入してから数日以内に抗エイズ薬から逃れるための「隠れ家」を設けることができることが分かったとの研究論文が、20日の英科学誌ネイチャー(Nature)に発表された。

 論文を発表した米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センター(Beth Israel Deaconess Medical CentreBIDMC)などの研究チームによると、同じことが人間にもあてはまるとすると、エイズを引き起こすHIVに感染した後は「極めて早期に」治療を開始することが不可欠かもしれないという。

 今回の論文が発表される数日前には、生後30時間から抗ウイルス薬を多量に投与し、1歳6か月まで治療を継続することでHIVが消えたとみられていたミシシッピ(Mississippi)の幼児から、2年間の投薬中断後に行われた検査で再度HIV陽性が判明したという残念な発表がなされたばかりだった。

 論文の共同執筆者の1人で、BIDMCのダン・バルーフ(Dan Barouch)氏は、AFPの取材に「ミシシッピの幼児にウイルスが再出現したという残念な臨床所見は、今回のサルを用いた実験データと一致しているように思われる」と語る。

「これらのデータは、HIV根絶の取り組みに対して重要な課題を提起している」

 HIV感染治療のカギとなる課題は、ウイルスが潜伏するための「隠れ家」となる、HIVに感染した免疫細胞の存在だ。HIVのDNAは感染した免疫細胞内で何年もの間、抗レトロウイルス治療や免疫系の影響を受けずに「休眠の状態」になることができる。

 大半の患者は、治療を中断するとすぐにHIVの増殖が始まるので、薬の服用を一生続けなければならないことになる。

 細胞内の「隠れ家」をめぐっては、感染後のどの時点で、またどの場所で設けられるのかなど、その実態はほとんど分かっていない。

 隠れ家がウイルスのDNAによって「植え付け」られるタイミングについては、急性HIV感染症を発症中の血液中HIV濃度がすでに高くなった状態で起きるとする仮説が一部で提唱されていた。

 だが、今回の研究でSIVに感染したアカゲザルでは、感染後「著しく早期に」隠れ家が設けられることが明らかになっている。

 このことについてバルーフ氏は「隠れ家が細胞組織内に設けられたのは、感染後の最初の数日中、HIVが血液中で検出される前だった」と説明している。

 アカゲザルのグループは、SIV感染後3日、7日、10日、14日が経過した時点でそれぞれ抗レトロウイルス治療を開始した。

 全てのグループで、投薬を中断するとすぐにウイルスは増殖を始めたが、早期に治療を開始したグループには遅れがみられた。

「ウイルスの隠れ家が感染の最初の数日以内に植え付けられてしまうことは、冷徹な事実であり、HIV1型(HIV-1)根絶の取り組みに対して新たな課題を提示するものだ」と論文の執筆者らは記している。