【7月9日 AFP】子どもの読解力と計算力の習得には共通の遺伝子が関与しており、遺伝子の微小な変異がそれぞれの能力に影響を及ぼしているとの研究論文が、8日の英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に掲載された。

 ただ論文の執筆者らは、これら能力が単に遺伝子主導で決まるものではなく、学校教育や親の手助けも不可欠な寄与因子だとして注意を促している。

 初歩的な計算能力や読み書き能力は部分的に遺伝することが知られているが、これに影響を及ぼす遺伝子については、これまでほとんど明らかになっていなかった。

 英ロンドン大学ユニバーシティー・カレッジ(University College LondonUCL)などの研究チームは、英国の家族が多数参加しているデータベース「双生児初期発達研究(Twins Early Development Study)」から、約2800家族の12歳児のデータを詳しく調べた。

 研究チームは、計算力および読解力と読みの速さを調べるテストの成績について、双生児と血縁のない子どもを比較して調査した後、子どもたちのゲノム(全遺伝情報)の照合を行った。

 その結果、読解に関与する遺伝子の10~50%が、計算にも関与していることが分かった。論文によると、これらの遺伝子に存在する微小な変異が子どもの能力水準に影響を及ぼしているという。

 UCLの遺伝学者、オリバー・デービス(Oliver Davis)氏は「読解と計算にとって、微小なDNA差異の同様の集合は重要な意味を持つ」と語る。

「だがそのどちらかの能力を向上させることにおいて、人生での経験がいかに重要かについても明白だ」

「われわれの個性を形成しているのは、成長過程でのこの『氏と育ち』の複雑な相互作用だ」

 共同研究者の英キングス・カレッジ・ロンドン(King's College London)のロバート・プロミン(Robert Plomin)教授によると、学習能力に対するDNA単独の影響について評価したのは今回の研究が初めてだという。

 だが、今回の研究で特定された遺伝子変異は「読解力や計算力」の特異的遺伝子ではない、と同教授は強調した。

 これらの遺伝子変異は、学習能力に対して多数の遺伝子がそれぞれに小さいが一体となった影響を及ぼしている、さらに複雑なメカニズムの一部を成すものだという。

 プロミン教授は「子どもたちがどの程度、学習を簡単に感じるか、難しく感じるかには遺伝的な違いがあり、こうした個人差を認識して尊重する必要がある」と指摘する。

 同教授は、「このような強い遺伝的影響が見つかったとはいえ、学習を困難に感じる子どもに対しては、どうすることもできないということではない」と述べ、「遺伝力は、何か変更がきかないものを意味するのではなく、子どもを十分な水準にまで育成するために、親や学校、教師の努力が通常より多く必要になるかもしれないという程度の意味でしかない」と続けた。(c)AFP