【7月7日 AFP】英国で、1970年代~80年代の政治家による児童虐待疑惑をめぐる告発関連文書114点の行方が分からなくなっていることが発覚し、政府主導の疑惑調査を要求する声が高まっている。

 この疑惑は当時の英議員らが組織的な児童虐待を行っていたというもので、1983年に児童虐待問題に取り組んでいた保守党の故ジェフリー・ディケンズ(Geoffrey Dickens)議員が内務省に提出した文書が焦点となっており、テリーザ・メイ(Theresa May)内相が7日の議会で説明を行う予定だった。

 ところが、内務省は6日になって、この児童虐待疑惑に関するファイル114点が「破棄されたか、行方が分からなくなっているか、見つからない」と発表した。内務省の監視委員会は「大々的な紛失問題」だと指摘している。

 この発表を受け、当時内相を務めていたレオン・ブリッタン(Leon Brittan)氏は「ディケンズ議員のファイルを適切に扱い、関連する情報は全て捜査のために当局に渡した」と釈明する羽目になった。

■隠ぺいか、労働党は徹底調査要求

 一方、80年代に閣僚を歴任した保守党の重鎮で、故マーガレット・サッチャー(Margaret Thatcher)首相に最も近い側近の1人といわれたノーマン・テビット(Norman Tebbit)氏は、英BBC放送に対し「恐らく隠ぺいされたのだろう」との見方を示した。「当時は権力層、つまり支配体制とは守られるべきものだという考えが大半で、何か誤った事態が起きても、問題に深く分け入るより体制を守るほうが重要だったと思う」

 この発言で、当時の児童虐待疑惑について広範な調査を求める声が勢いを増している。野党・労働党の「影の内相」、イベット・クーパー(Yvette Cooper)氏は「児童保護の専門家が主導する包括的な再調査が必要だ」とする公開書簡をデービッド・キャメロン(David Cameron)首相率いる現内閣に送り、「隅々まで調べ尽くさない限り、組織的な病理や隠ぺい工作が放置されているとの懸念は払しょくできない」と指摘した。

 だが、慎重な声もある。80年代に内相を務めた保守党のデビッド・メラー(David Mellor)議員は、過去の疑惑の掘り起しは「中傷」につながる恐れがあると警告。また、ニック・クレッグ(Nick Clegg)副首相は、新たな調査を行わなくても警察の捜査で十分だと述べた。

■英国で相次ぐ児童虐待スキャンダル

 小児性愛者の強大なネットワークが英政府上層部にまで食い込んでいたとする疑惑は、1980年代に初めて露呈した。2012年にBBCテレビの元人気司会者、故ジミー・サビル(Jimmy Savile)氏が児童性的虐待の常習犯だったとする警察の捜査報告が発表されたことから、再び疑惑に注目が集まっている。

 英国ではサビル氏のスキャンダル発覚を受けて、著名人による性的虐待に関する捜査「ユーツリー作戦(Operation Yewtree)」が立ち上げられ、5月には著名広報コンサルタントのマックス・クリフォード(Max Clifford)受刑者に、また今月4日には芸能人のロルフ・ハリス(Rolf Harris)被告に有罪判決が出た。

 また、首相経験者の側近議員が大規模な小児性愛者ネットワークに属していたとの疑惑を追及するため、2013年に「ファーンブリッジ作戦(Operation Fernbridge)」と呼ばれる捜査も開始され、これまでに数人が逮捕されている。(c)AFP/Naomi O'LEARY