■身近な動植物を描くピグミーの女性たち

 結局、情報技術を3年間勉強した後、美術を学ぶために編入した。親に内緒で、キンシャサのHigher Institute of Arts and Crafts (ISAM)に通い始めた。もともと環境に対する意識が高かったこともあり、「ファッションと森林の保護」について学ぶようになったという。

 2007年、彼はコンゴ北東部のエプルの森で暮らすムブチ族のピグミー家族に出会った。それは、紛争地域に住んでいたが民兵からの襲撃を逃れて、首都までやってきた家族だった。

 彼らはムブガさんに、ピグミー族が樹皮に描いた絵の写真を収めたアルバムをくれた。それを見て「この絵を布にプリントしてみたらどうだろう?」と思いついた。

 彼は森林伐採と鉱山開発が狩猟生活をしているピグミー族にとって大きな脅威だということを痛いほど理解していた。ピグミーはアフリカ中部に広がるアマゾンに次いで広大な森林地帯で、複数の国にまたがってコミュニティーを築いている。

 社会的な地位は向上したものの、ピグミーたちが医療サービスや教育の機会を得るのは難しく、差別にさらされることも多い。低賃金の労働を強いられたり、賃金の代わりにアルコールやたばこを渡されることもあり、それが依存症の拡大にもつながっている。

 2011年、ムブガさんは初めて、国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の世界遺産登録されているエプルの森を訪れた。エプルはオカピが生息していることで有名で、この種は今では同地域を中心とするごく一部の地域にしか生息していない。

 ピグミーの村を訪れたとき、ムブガさんはムブチ族が「彼ら特有の哲学と技術で、自分たちの世界観を樹皮に表現していた」のを目の当たりにしたと、ブログに書いている。

 それらの樹皮は、ピグミーの男たちが集めてきたイチジクの木からとれたもので、顔料は植物から取った黒や赤、黄色が使われていた。アーティストは女性たちだ。彼女たちが身近な動植物を描く様子を、子どもたちが真剣に見つめていたという。