【7月7日 AFP】クローン牛を販売する米国で唯一の大手企業であり、アイオワ(Iowa)州スーセンター(Sioux Center)に本社を置くトランス・オバ・ジェネティック(Trans Ova Genetics)は、クローン技術を用いて毎年約100頭の子牛を生産する他、クローン豚やクローン馬の生産も行っている。

 家畜の繁殖技術を専門とする同社は、1990年代に隙間市場としてクローン技術に関心を持つようになった。

 1996年に史上初めて哺乳類の成体のクローンとして誕生したヒツジの「ドリー(Dolly)」は当時、SF小説そのもののように見えたが、両親の遺伝物質の融合という通常の生殖から逸脱するとして倫理的な問題も提起した。それでも、クローン技術はすでに米国を含む多くの国で普及し、利用されている。

 食品の安全を管轄する米食品医薬品局(US Food and Drug AdministrationFDA)は2008年、クローン技術で誕生した牛や豚、ヤギなどから生産されたミルクや肉の消費を承認した。

 だが太平洋の反対側では欧州連合(EU)の執行機関、欧州委員会(European Commission)が昨年12月、クローン動物の食品利用および輸入の禁止法案を提出し、まだ検討中だ。

 ただし欧州委員会は、欧州議会(European Parliament)が後押ししていた、クローン動物の子孫に由来する製品の販売禁止やトレーサビリティー(生産・流通過程の追跡可能性)の確保については追求しなかった。

 トランス・オバ・ジェネティックの動物クローン部門トップを務めるブレーク・ラッセル(Blake Russell)氏はトレーサビリティーの実効性に疑問を呈し「今、世界中に数千頭のクローン牛が存在し、その子孫たちは年々増加している。(ルーツを)さかのぼることは直、ほぼ不可能になるだろう」と述べている。

 同社の販売およびゲノム研究部門を指揮するマーク・アラン(Mark Allan)氏はクローン技術によって、増加の一途をたどる世界人口を養っていくための動物タンパクを増産でき、また脂肪分の少なさやミルクの生産効率、耐病性などクローンされる個体が持つ望ましい特徴の保存が可能になると希望を託す。

■米当局の決定は「重大な過ち」

 だがクローン動物の利用に反対する人々は、こうした動きに警鐘を鳴らす。

 NPO団体「食品安全センター(Center for Food Safety)」の上級政策アナリスト、ジェイディー・ハンソン(Jaydee Hanson)氏は、米当局がクローン動物の食用について規制せず、また人体に及ぼす影響に関する長期的な研究を待たずに食用を許可したことは重大な過ちだと指摘する。

 ハンソン氏によれば、クローン動物の生存率はどの生育段階でも通常より低く、クローンによって作成した卵子が移植された「代理母」の牛は妊娠・出産の際により多くの問題が起きている。

 毎年生産される数百万頭の牛のうち、クローン牛が占める数は全体から見れば取るに足りないが「要は、クローン牛が増えることはさまざまな理由で望ましいことではない。何よりも、クローン動物は全般的に健康体ではない」とハンソン氏は警告した。(c)AFP/Juliette MICHEL