【6月28日 AFP】モナコ公国で先月起きた資産家のエレーヌ・パスタ―(Helene Pastor)さん(77)射殺事件で、被害者の娘婿であるポーランドのボイチェフ・ヤノウスキー(Wojciech Janowski)在モナコ名誉領事(64)が、殺人と殺人依頼の罪で訴追された。 仏マルセイユ(Marseille)のブリス・ロバン(Brice Robin)検事が27日の記者会見で発表した。

 ロバン検事によると、ヤノウスキー容疑者は殺人依頼のため現金20万ユーロ(約2770万円)と5万ユーロ(約690万円)相当の贈答品を使ったという。

 同容疑者の動機は、パートナーで被害者の長女であるシルビア・パスタ―(Sylvia Pastor)さんに相続される「遺産を手に入れる」ためだったとされている。シルビアさんは、事件で「裏切られた」と感じており、極めて困難な心理状態にあるという。殺人は容疑者のパーソナルトレーナーが「お膳立てした」という。

 ヤノウスキー容疑者は23日に他の22人と共に逮捕され、現在も拘束されている。シルビアさんも司法当局に一時拘束され取り調べを受けたが、罪に問われることなく26日に釈放された。この事件ではこれまでに7人が起訴され、うち6人が依然として身柄を拘束されている。

 ポーランド外務省は27日、ヤノウスキー容疑者から名誉領事の称号を剥奪したと発表し、名誉領事の地位は「(捜査や逮捕などを免れる)外交官免責」や「個人としての特権」を与えるものではないと述べた。

■不審な金の流れ

 エレーヌさんは今年5月6日、南仏コート・ダジュール(French riviera)の都市ニース(Nice)の病院を車で出た際にソードオフ・ショットガン(銃身と銃床を切り詰めた散弾銃)で数発撃たれて死亡。運転手(64)もその際の傷で死亡した。 エレーヌさんは、石工で1880年にモナコに移住したイタリア人祖父が創業した建設会社と膨大な不動産を相続していた。

 ヤノウスキー容疑者はモナコでナノテクノロジー企業と石油関連企業を経営し、数多くの慈善事業も手掛けていた。英ケンブリッジ大学(University of Cambridge)を卒業し、シルビアさんとの交際を始めた後の今から20年前にモナコに移った。2人の間には10代の娘が1人いる。

 エレーヌさん殺害の実行犯は31歳と24歳の男。2人はいずれもインド洋の旧フランス領の島国コモロ連合出身で現在はマルセイユ北部の治安が悪い地区に住んでいる。24歳の男が発砲し、31歳の男が見張った。2人は監視カメラと携帯電話の記録、2人が犯行当日にいたニースのホテルで採取されたDNA検体の鑑定で突き止められた。

 警察は、ヤノウスキー容疑者の銀行口座の「不審な金の流れ」も調べている。ブリス・ロバン検事によると、ヤノウスキー容疑者は1年足らずの間に840万ユーロ(約11億6000万円)もの金を使い、アラブ首長国連邦(UAE)ドバイ(Dubai)の銀行口座から今年4月22日から事件の2日前に当たる5月4日まで9回にわたって合計25万ユーロ(約3460万円)を引き出していた。

 捜査関係者によるとヤノウスキー容疑者のパーソナルトレーナーは5万ユーロを手元に残し、残りは殺害のために使ったとみられている。(c)AFP/Renaud LAVERGNE