【7月10日 AFP】中国では今年3月、全国人民代表大会(National Peoples Congress、全人代、国会に相当)に向けて共産党幹部が北京(Beijing)に集結するなか、同国のベテラン政治活動家、何徳普(He Depu)氏(57)は、北京から強制的に退去させられた──当局が費用を全額負担する同国南部、海南(Hainan)島での休暇という名目のもと当局者のエスコート付きで連れ出されたという。

 これは反体制活動家の口封じとしては異例のやり方と言えるだろう。だが人権団体によれば、休暇を強要された経験がある活動家は何氏の他にも数十人いるとされ、休暇の内容には、日差しのまぶしい砂浜に隣接する高級ホテルや観光地への旅行のほか、豪華な夕食なども含まれるという。すべて当局からの無料提供だ。

 この手法は頻繁に使われるため、活動家たちは呼称を付けた──「被旅遊(させられた旅行)」と。

■重要行事の度に「被旅遊」

 何氏には何の容疑もかけられていなかったが、当局者に2300キロ離れた海南島に連れ出され、全人代の期間中、10日間にわたって北京から離された。妻と別の反体制活動家、それに警察官2人が同行し、海水浴や仏像めぐりをさせられたという。

「かなりの資金が旅費に充てられたようで結構楽しめた。地元当局が全て支払ってくれた」と何氏は振り返る。

 AFPの取材では、近年「被旅遊」を強いられたと語る活動家は合わせて8人に上った。

 何の補償もなしに自宅を解体され、当局高官の糾弾を続けているXu Xiangyuさんは「重要な国のイベントがある度に被旅遊に連れて行かれる」と語る。

 中国共産党は政府を批判する人物を頻繁に拘束し、権力の掌握に努めている。この10年で国内の治安維持のための予算は急増し、ほぼすべての年で国防費の公称額を上回っている。

 中国は大がかりな「秩序維持」装置を作り上げ、習近平(Xi Jinping)国家主席が2012年にトップに立って以降は、反体制活動家の取り締まりを強化している。

 被旅遊の件数は、天安門(Tiananmen Square)事件から25年を迎える6月4日に向けて急増した。米国に拠点を置く人権団体「中国人権(Human Rights in ChinaHRIC)」によれば、この日を前に15人が強制的に休暇を取らされたという。