■ファベーラの暗黙のルール

 2人は、2013年2月~5月のほぼ毎週末、10~15歳の子どもたち3~10人のグループ全員にカメラを渡し、サッカーについて撮影するという目的を課した。大抵は3~4時間ずつだったが、1日中に及ぶことも何度もあった。「私の仕事の基礎を教え、基本ルールを色々教えた。例えば、人にポーズを取らせないとか、フラッシュはたかない、といったね」

「(ファベーラでのサッカーというテーマを)1人で撮っていたら、自分のやり方、見方でやっていただろう。けれど今回は若者たちが、自分たちの周りの環境やサッカーへの情熱を見せるチャンスだった。結果は、私がやっていたはずの仕事よりもずっと本物だった」

 シモン氏によると、ファベーラにはファベーラの暗黙のルールがあるという。「例えば、隣の家で起きていることは見て見ぬふりをする。それが最善だということは皆知っている。最初にここに来た当時、私の新参者の目では分からなかったことだ。でも私からも彼らに教えたことがあった。ずっと目の前にあったものに、彼らが一度も見たことがない現実に目を向けるということだ」

 取材中、トニーさんがいなければ危なかったこともあったという。「シダーデ・デ・デウスは『鎮静化』されたかもしれないが、問題のない地域になったわけではない。カメラを嫌う薬物ディーラーたちと出くわしたことも何度もある。けれど、トニーがタイミングよく間に入ってくれて、一度もひどいことにはならなかったよ」

 参加者は入れ替わり立ち代わり訪れた。少し経つと地域でのプロジェクトの知名度も上がり、有望な子どもたちが多数やって来た。何人かは最後までずっと来ていた。

「クアン(Kuhan)のことは特によく覚えている。10歳で、両親はクラック中毒だったが、彼は驚くほど生き生きし、才能にあふれた子どもだった。プロジェクトの終わりに選んだ50枚の写真のうち、最も良いものの数枚は彼の写真だった」(シモン氏)

 AFPとモダフシオンは提携プロジェクトを立ち上げ、2016年のリオデジャネイロ五輪まで、若者を対象としたワークショップの開催を継続する。(c)AFP/Christophe SIMON