【5月26日 AFP】意中の人の心を射止めたい、仕事で昇進したい。パキスタンにはどんな願いでも力を貸してくれる「黒魔術師」が多く存在する。彼らの助けがあれば、叶わないことなど何一つもない――心ばかりの謝礼さえ忘れなければ。

 同国に何世紀も前から伝わる黒魔術は、イスラム教の神秘主義、スーフィズム(Sufism)に起源を持つ。伝統的にそれを操るのは、現地で「ピル(pir、聖人の意)」や「アーミル(aamil、魔術師の意)」と呼ばれる人たちだ。

 この黒魔術師らを万能と信じて疑わない人もいれば、人々の迷信につけこむ詐欺師だとみる人々もいる。イスラム教強硬派の一部からは否定されているにもかかわらず、黒魔術師たちは活動を続けている。

「自宅にいながら万事解決、今すぐご連絡を」という宣伝文句が、複数の新聞の広告欄に掲載されている。「恋愛で失敗した、上司を圧倒したい、転職したい、海外に行きたい、プロポーズされない、宝くじを当てたい」など、どんな問題にも答えを出すとしている。

「聖人」、アリ・フセイン・シャー(Ali Hussain Shah)さん(55)は、イスラム教の聖典コーラン(Koran)から正しいまじないを引き出すことが、奇跡をもたらす鍵だという。シャーさんは、人類の利益のために働いており、慈善事業としてサービスを提供していると語る一方で、その成果に満足した人々は謝礼を惜しまないと認めている。

 日曜の新聞に出す広告料は安くないが、ある女性からの礼金でまかなえたという。女性は英国の男性との結婚を希望していたが、両親から反対されていた。シャーさんによると、「女性が好きだという英国系パキスタン人男性との結婚を、両親は認めていなかった。彼女から依頼があったのでまじないを唱え、7日以内に結婚できると伝えると、彼女の願いは実現した」という。

 しかし誰もが黒魔術師の力を認めているわけではない。首都イスラマバード(Islamabad)の「赤いモスク(Red Mosque)」の指導者は、「黒魔術を使い、それを商売とするのはシャリア(イスラム法)に反する。また偽りの黒魔術師に助けを求めてきた若い女性たちが暴行された事例も少なくない」と話している。(c)AFP/Masroor GILANI