【5月21日 AFP】1人当たり毎年1ドルほどの投資を行うことで、赤ちゃんと母親合わせて年間300万人の命を救うことができるようになるとの報告が、20日の英医学専門誌ランセット(Lancet)に発表された。

 195か国のデータをまとめたこの報告書によると、1日あたり8000人の新生児が死亡し7000人が死産しているという──年換算では290万人の新生児が死亡し、260万人が死産している。だがこれらの死の大半は防止可能だという。また、出産に関連した合併症で、全世界で毎年25万人の女性が死亡している。

 報告書の共同執筆者で英ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院(London School of Hygiene and Tropical MedicineLSHTM)、妊娠出産と子どもの健康センター(Centre for Maternal Reproductive and Child Health)のジョイ・ローン(Joy Lawn)氏は、「毎年、100万人の赤ちゃんが生まれた日に死亡している。出産結果改善のための投資拡大がなければ、2035年までに(母親と新生児の死亡と死産を合わせて)1億1600万人が死亡することになる」と語った。

■出産ケアを全世界の母子90%に

 2025年までに出産前後のケアを全世界の女性と赤ちゃんの90%にまで広げるための年間コストは56億5000万ドル(約5700億円)。これは、赤ちゃんと母親の死亡が最も多い国75か国で1人当たりに年間1.15ドル(約120円)を投資する額だ。

 報告書によれば、この投資により2025年までに毎年、新生児190万人、女性16万人の命を救い、82万人の死産を防止することができる。これは救うことのできる命1人当たりわずか2000ドル(約20万円)の出費で、救われた命の生み出す労働力やその他の利益を考えると、3倍から4倍のリターンのある投資だという。

 適切なケアには出産前の診断や出産時の支援、出産後の適切な栄養提供、母乳育児の奨励、感染症予防、医療へのアクセス、熟練助産師と看護師、タイムリーな専門家のケアなどが挙げられている。

■「目に見えない」死産

 全世界の新生児の死亡のうち約半数が、インド(77万9000人)、ナイジェリア(27万6000人)、パキスタン(20万2400人)、中国(15万7000人)、コンゴ民主共和国(11万8000人)の5か国に集中している。

「アフリカで生まれた早産児が死亡する可能性は、北米や欧州で生まれた早産児と比べて11倍高い」と研究者らは述べている。現状の傾向が続くようであれば、アフリカで生まれた赤ちゃんの生存率が北米や欧州で生まれた赤ちゃんの生存率と同じになるまで、あと110年以上かかる見通しだ。

 また研究者は死産が「目に見えない」問題としてあることを指摘した。死産には出生証明書も死亡証明書もなく、赤ちゃんの死亡を削減する対策では対象に含まれないからだ。また無事に出産しても出生登録されない赤ちゃんも多いという。

 国連(UN)は1990年から2015年にかけて5歳未満の子どもの死亡率を3分の2削減することを目指している。(c)AFP