【5月12日 AFP】政治情勢が予測できないといわれるベルギーで、総選挙を2週間後に控え、首都圏の飛行ルート変更をめぐる対立から、フランス語系とオランダ語系による「言葉の戦争」が再燃している。

 論争に割って入る形で、エリオ・ディルポ(Elio Di Rupo)首相は8日、運輸相が今週発表した飛行ルート変更を「即時停止する」と発表した。運輸相が提示した新たな飛行ルートは、首都ブリュッセル(Brussels)中心部を通る予定で、騒音問題が予想された。5月25日の総選挙を前にディルポ首相は声明で、連立政権を弱体化させる問題について「建設的で平和的な対話」も呼び掛けた。

 ディルポ氏は、ここ30年以上で初のベルギー南部フランス語圏出身の首相であり、1974年以来初めての社会党系の首相でもある。

 首都までわずか2キロの位置に建てられたブリュッセル国際空港(Brussels Airport)が、同国北部のオランダ語圏フランデレン(Flanders)に属することが、二つの言語を公用語とするベルギーの政界に20年もの間、暗い影を落としている。

 空港の滑走路はブリュッセル東部にあるが、風はおおむね西向きであるため、多くの飛行機が首都に向かって離陸していく。首都人口の大半はフランス語話者だが、その周囲にここ数年、大幅に拡大している郊外はオランダ語圏だ。

 歴代の運輸相は、騒音が抑制される飛行ルートの設定を試みてきたが、満足な結果は得られていない。現在の運輸相はフランス語話者で中道右派のメルキオール・ワトレ(Melchior Wathelet)氏だが、同氏は2月、飛行ルートを変更するプロジェクトの実施を指示。政権内でも寝耳に水で大きな物議を醸した。

 この結果、以前はオランダ語圏の上空を飛んでいた年間約3万5000機が今は、フランス語話者が多い首都上空を通過する。

 市当局によれば、航空機の上空通過による影響を受けるブリュッセル住民が、2か月で15万2000人から38万8000人に増えたことになる。市はこの「ワトレ計画」に対し、司法に訴え出た。

 連立与党のパートナーを含む各方面からの批判を受け、ワトレ運輸相は前週、ブリュッセル中心部の上空を通過する航空機の数を9日から半分に減らすと発表。残る半分は、代わりにオランダ語圏上空を通過させると述べた。

 すると今度は、政権内のオランダ語話者の閣僚たちとオランダ語圏の自治体が激怒し、ディルポ首相がこの計画の「即時停止」を宣言するに至った。(c)AFP/Claire ROSEMBERG, Philippe SIUBERSKI