■ファッションとしてのソーシャルメディア

 「ノームコアのファッションに気づき始めたのは、2年前モントリオールからニューヨークに引っ越してきたときだったわ。最初はニューヨークのアート系の若者がノームコアなファッションを着ていたのだけど、正当なファッション愛好者にもだんだん広かっていったのよ」と語る。ノームコア・ファッションの先駆者と言われる故スティーブ・ジョブズのスタイルについて伺うと、「黒のタートルネックにジーンズ、スニーカーのスタイルを彼は全く変えなかった。ジョブズはファッション・スタイルだけではなく、それ以上にノームコアの概念と関係あると思う。私自身がノームコアという言葉を使い始める前にノームコアなファッションを着ていた頃、「iPhoneがあれば、私のポケットには世界が入っている。他に余計なものはいらいない」と冗談で言ったことがあるの。でもそれは単なる冗談ではなくなってきていて、視覚的刺激を受けられるようなデジタルメディアがあれば、現実はシンプルで良いと思う。ソーシャルメディアなどで自分の個性を発信できれば、それは広い意味で“ファッション”ではないかしら」と語る。

 FacebookのCEOであるマーク・ザッカーバーグは、2014年度のアメリカ・フォーブス誌世界長者番付で2兆8500億円の資産を有すると発表されたが、その潤沢な資産からは考えられないほど私生活は至って地味だ。ザッカーバーグのリアルライフについて、ウェブサイト『現代ビジネス』のコラム「賢者の知恵/26歳で6000億円の資産を持ちながら、“映画になった男”の私生活は驚くほど地味」(2011年2月18日)に次のように述べられている。

 「彼の人生にとってのキーワードは「地味」である。まずファッション。紛れもないセレブとなった今でも、おシャレにはまるで無頓着。Tシャツにジーパンといったラフな格好で歩き回っている。愛車も、数年前に購入した中級モデル、黒いホンダアキュラTSX。買う際は、友人に「安全で快適で、けばけばしくない車が欲しい」と相談して決めたという。そもそも、オフィスが近いので、普段は徒歩か自転車で通勤している。カネにも執着はないようだ」
※参考:http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2103)。

 ザッカーバーグがいつもグレーのTシャツを着ている理由は、忙しい朝に考えることを一つ減らしたいからだそうだ。

■普通の人はいつでも普通に装っている

 ここまでのトピックは、個性が強い人、または個性を表現しようと試みる人の話だったが、元はといえば、大体の人は普段から“普通すぎる”の装いをしている。しかし、この“普通すぎる”服装がまた違った文脈で話題になっている。それは若い世代が「普通の服=無難な服」と捉え、不気味なほど同じ服装をしている人が増えていることだ。
※参考:http://matome.naver.jp/odai/2136239953823462101?page=2

 雑誌『MEN’S NON-No』 (2014年4月10日号/336号) では、「今したい着こなし全網羅!」と謳った「スタイルコピペブック」冊子を付録にしている。他者から見て過度に個性的でもなく、ださくもなく、好かれる服を提案している。つまり「他人のスタイルをコピペせよ」と謳っているわけだ。“装うこと”の意味を考えずに毎日無難な服装をしているのは、ある意味で怠惰なのかもしれないと思う一方、学生時代は制服を着せられ、社会人になってもスーツを半強制的に着せられている状態で装いを考えろというのも無理難題だろう。