【4月25日 AFP】バングラデシュで昨年起きた縫製工場ビル崩壊事故で、発生から17日目に救出され「奇跡の人」となったレシュマ・アクテル(Reshma Akhter)さん(19)──あの大惨事から1年がたった今、レシュマさんは結婚し、新たな職に就いている。

 首都ダッカ(Dhaka)近郊で昨年4月24日に縫製工場が入る8階建てビル「ラナプラザ(Rana Plaza)」が崩壊したこの事故では、世界の縫製工場で起きた事故としては史上最悪規模の1138人が死亡、2000人以上が負傷した。レシュマさんの救出は悲惨な災害現場に差し込んだ一条の明るい光となり、土ぼこりにまみれ意識がもうろうとした状態でがれきの中から姿を現したレシュマさんの写真は、世界中の新聞の一面を飾った。

 数千人に上った他の生存者や、現場で救助に当たった救急隊員らと同様、レシュマさんはいまだ不眠とパニック障害に苦しんでいる。しかし今年2月には同国北部にある出身地の村で結婚して簡素な式を挙げ、現在は世界的なホテルチェーン、ウェスティン(Westin)が経営する宿泊施設で得た新しい仕事を楽しんでいる。同社は事故後にレシュマさんに職の提供を申し出ていた。

「衣料縫製工場の仕事とは全く正反対。この仕事は平穏で、リラックスして取り組める」というレシュマさん。一方で、衣料工場には二度と足を踏み入れないと誓っている。

 事故現場から数メートルしか離れていない家族の家でAFPの取材に応じたレシュマさんによると、同ビル内に5つあった工場のうちの1つで働き始めたのは、事故発生のわずか22日前だったという。当時の基本月給は、1日10時間労働をこなしても4700タカ(約6000円)だった。

 あれから1年が経過したが、欧米の小売企業が拠出した信託基金からは何らの補償も受け取っていない。同基金は当初、4000万ドル(約41億円)を集めることを目標としていたが、実際に集まったのは1500万ドル(約15億円)のみだった。

 あの災害以来、信仰心がよりあつくなったとするレシュマさんは、現在も衣料業界に勤める人々と、亡くなった同僚たちのための祈りを欠かさない。「縫製工場の安全もあわせて祈っている。もう誰も命を落とさなくてすむように」

 今も消えないトラウマと闘いながらも、結婚したばかりの夫との新生活に夢を膨らませ、より大きな家への転居も計画中だ。夫についてレシュマさんは、「近所に住んでいたので何年も前から知り合いでした。いい人で、私を大事にしてくれる」と語っている。(c)AFP