■虐殺のトラウマ 次世代にも

 レイプ被害者やその子どもたち、また殺人犯の子らへのカウンセリング活動を行う団体「ベスト・ホープ・ルワンダ(Best Hope Rwanda)」を設立したデュドネ・ガヒジガンザ(Dieudonne Gahizi-Ganza)氏は、ガチャチャ裁判の不十分さを指摘している。「確かにガチャチャは正義をもたらすことに寄与し、犯罪者を裁きにかけてきた。しかしわれわれには和解が必要だ」

 政府の平和和解委員会(Peace and Reconciliation Commission)のジャンバティスト・ハビャリマナ(Jean-Baptiste Habyarimana)事務総長も、「大虐殺の後には、30万人の孤児と夫を失った50万人の女性が残された」として、「これらの人々が普通の生活を取り戻すのは容易ではない」と認めている。

 ベスティン・ムカンダヒロ(Vestine Mukandahiro)さんは、首都キガリ(Kigali)郊外のバナナの木が立ち並ぶ路地に多数見られるれんが造りの家の1軒に暮らしている。性的暴行を受けて妊娠し生まれた娘について心の折り合いをつけるのに、何年もかかったという。

 13歳でレイプされ妊娠が発覚。自殺することもおなかの子を殺すこともできないと覚悟したムカンダヒロさんだったが、「娘が生まれてみると、この子とは暮らせないと思った。顔を見るとレイプのことを思い出してしまうから」

 その上近所の人たちからは、「いまわしい子」を連れてきたとして「売春婦のような」扱いを受けたという。

 市民を対象にしグループカウンセリングに力を入れた和解プログラムを通じて、世間に広まった汚名こそすすがれてきたものの、自らの過去を告白することで、大虐殺の何年も後に生まれた人々が大虐殺の追体験を強いられるという問題が生じている。

 ガヒジガンザ氏は、「トラウマが現世代から次の世代に受け継がれかねない」と警告している。