19世紀後半に開かれたマーファの町は、牧場や軍事基地が設置されて繁栄したものの、破滅的な干ばつに襲われたことで多くの家畜が失われ、さらに第2次世界大戦(World War II)の終結に伴って軍事基地も閉鎖され、衰退に拍車が掛かった。

 1955年にジェームズ・ディーン(James Dean)とエリザベス・テイラー(Elizabeth Taylor)が出演した映画『ジャイアンツ(Giant)』のロケが行われたことでマーファはつかの間の脚光を浴びたが、町の復興が本格的に始まるまでにはさらに20年近く待たなければならなかった。

 マーファの復興は、20世紀美術界の潮流の一つである「ミニマリズム」の巨匠ドナルド・ジャッド(Donald Judd)氏がこの町に移り住んだ1972年にまでさかのぼることができる。

 ニューヨーク(New York)での狂騒的な生活に疲れていたジャッド氏は、砂漠が広がる風景に魅せられ、マーファにあったいくつかの軍関連施設や商業施設を、自身の巨大な作品を保管するために買い取った。

 家族とアトリエをこの町に移したジャッド氏は、芸術振興を支援するニューヨークのNPOディア芸術財団(Dia Art Foundation)から援助を受けてチナティ財団(Chinati Foundation)を創設し、ダン・フレイビン(Dan Flavin)氏、ジョン・チェンバレン(John Chamberlain)氏といった同僚や自身の作品を恒久展示する施設の建設に取り組んだ。

 1994年にジャッド氏が亡くなってからも収蔵品は増え続け、マーファは現代芸術の拠点として成長していった。