【3月11日 AFP】英作家ジョン・ル・カレ(John Le Carre)氏(82)の作品に登場するスパイ、ジョージ・スマイリー(George Smiley)の人物描写によって、モデルとなった実在の英スパイ、ジョン・ビンガム(John Bingham)氏の人物像が傷つけられたとの批判の声が上がっていることについて、ル・カレ氏は先週、ビンガム氏をモデルとして使ったのは、友人であった同氏に敬意を表するためだったと反論した。

 英情報局保安部(MI5)の元スパイで、1988年に死去したビンガム氏については、機密指定の解除に伴い英国立公文書館(National Archives)が先月末に公開した文書によって、第2次世界大戦中に英国のナチス・ドイツ(Nazis)支持者らから情報を収集するため、ドイツ人スパイになりすまして活動していたことなど、輝かしい活躍が明らかになっていた。

 これを受け、著名歴史家のアリステア・レクスデン(Alistair Lexden)氏は、ビンガム氏がル・カレ氏の小説の中で「適切な扱いを受けていない」などと批判。小説によって同氏の人物像が傷つけられたと主張した。

 スマイリーを主人公とした「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ(Tinker Tailor Soldier Spy)」や「寒い国から帰ってきたスパイ(The Spy Who Came in from the Cold)」などの小説を執筆してきたル・カレ氏はこの批判に対し、今月5日の英紙テレグラフ(Telegraph)に「デービッド・コーンウェル(David Cornwell)」の本名で書簡を投稿し反論。1950~60年代にMI5や秘密情報部(MI6)に務めていた自身とビンガム氏は「親しい友人であり、同僚だった」と述べた。「彼は、最も尊敬に値する人物であり、愛国心が強く、優秀な人物だった」

 また、「友人であり同僚である人に敬意を表するには、人々に喜びと思考の糧を与えてきたジョージ・スマイリーという架空のキャラクターを生み出すよりもいい方法は、ほとんどないことは間違いない」と主張した上で、ビンガム氏とは世代が違うことから、諜報機関に関する考え方も異なっていたと指摘。「ビンガム氏は、情報機関への無批判の愛が、愛国心と同義だと信じていた。私は、そのような気持ちは検証されるべきと考えるようになった。そのような警戒心なしには、情報機関は特定の状況下において、仮想の敵と同様の民主主義に対する危険となりうる」と説明した。 (c)AFP