■批判をよそにデモ隊率いる

 しかしイサラ師の行動に対しては厳しい見方も出ている。

 タイ国家仏教事務局(National Office of BuddhismNOB)のノパラット・ベンジャワタンヌン(Nopparat Benjawattantnun)局長は、イサラ師が所属する寺院に同師を連れ戻すよう要請しており、またタイ仏教徒協会(Buddhist Association of Thailand)からも「サンガ(出家修行者による僧団)の掟を破っている。仏教のイメージを壊している」と批判されている。

 東南アジアでは、隣国ミャンマーの2007年の反政府デモの時もそうだったように、僧侶たちは政治の面でもその役割を公然と果たしてきた。しかし、国民の95%が仏教徒のタイでは、僧侶は党利党略とは距離を置くべきだという考えが多い。それでも、2010年の「赤シャツ隊」ことタクシン・シナワット(Thaksin Shinawatra)元首相派によるデモのように前例がない訳ではない。

 イサラ師の行動について、英リーズ大学(University of Leeds)のダンカン・マッカーゴ(Duncan McCargo)教授(東南アジア研究)は「理論的に僧侶はノンポリだが、表面下で起きていることをよく見ると、あらゆる種類の政治が見えてくる。ただ、今回のケースが特別なのは、高名な僧侶が支援的な役割を果たすだけでなく、ステージの中央にいる点だ。僧侶としては著しく目立つ役割だ」と指摘した。

 バンコクで展開しているデモの参加者らを前に、「ここには抗議の参加者に尊敬されている2人のリーダーがいる。クン・ステープと私だ。2人のうちどちらかが殺されれば、大群衆が行進する。それは政府にとって鎮圧のための武力行使を正当化させるだろう」と、ステープ元副首相の名前に敬称の「クン」を付けて語ったイサラ師。そして、今いる場所を動くつもりはないと宣言しながら「私たちはここにいる。この国に勝利をもたらす」と声を上げた。(c)AFP/Amélie BOTTOLLIER-DEPOIS