【1月8 日 AFP】古代ファラオの遺跡で有名なエジプトのルクソール(Luxor)はかつて観光客であふれていた。だが同国の政治情勢の激変により、観光客の姿は消えてしまった。

 エジプトの政情不安は2011年、長年独裁を敷いてきたホスニ・ムバラク(Hosni Mubarak)元大統領を退陣に追い込んだ民衆蜂起から始まった。2013年7月には軍の事実上のクーデターによりムハンマド・モルシ(Mohamed Morsi)前大統領が解任。その間も暴動や混乱は続き、同国の経済を支える観光産業は大きな痛手を負っている。

 ルクソールで観光案内の仕事をするサラーハさん(51)の馬車には、この何か月間も客が乗っていない。「以前は月に2000~3000エジプト・ポンド(約3万~4万5000円)を稼いでいたが、今ではポケットに10ポンド(約150円)あればいいほうだ」という。4人の子供がいて、末っ子はまだ18か月だ。

 エジプト南部、ナイル川の岸に位置する人口約50万のルクソール市。同国最大の観光地の一つだが、過去3年にわたる政変の影響をもろに受けている。市民の大半はサラーハさんのように観光業で生計を立てている。観光はエジプトのGDP(国内総生産)の11%以上を占め、最近まで400万人以上の雇用を維持していた。

■市内はゴーストタウン化

 しかし、ルクソールに毎日約1万人もの観光客が訪れる日々は過ぎ去ってしまった。「馬をもう1頭持っていたんだが、売ってしまった」とサラーハさんはいう。「子供と馬2頭、どちらを養っていくかの選択だった」。

 サラーハさんのように馬車による観光ガイドはルクソールで340件が営業しているが、うち20件の馬が餓死したという。

 かつては潤っていたルクソールは、今やゴーストタウンと化している。空港に人影はなく、ホテルの前に停まっているタクシーに乗り込む客もほとんどいない。

 エジプトではモルシ氏退陣後も、軍主導の暫定政府によるモルシ支持派の弾圧は続き、暴力をともなう衝突で1000人以上が死亡した。治安が悪化する中、諸外国政府はエジプト渡航に注意を喚起しており、観光業が回復する見込みも立たない。

 ルクソールではこれまで暴動は起きていないが、観光業に携わる人たちはモルシ前大統領とその出身母体であるイスラム組織「ムスリム同胞団(Muslim Brotherhood)」に非難の矛先を向けている。

 再び安定を取り戻すため、ルクソールの住民は、暫定政府が約束通り民主的な政権移行を迅速に実行することを求めている。今月には新憲法案の是非を問う国民投票が実施される予定で、今年半ばまでに議会選と大統領選挙も行われる見込みだ。(c)AFP/Sarah BENHAIDA