【12月11日 AFP】今月5日に亡くなった南アフリカの黒人解放運動の象徴、ネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)元大統領の追悼式の場で、民主化から約20年が経った今も南ア国民の生活向上が実現されていないことに幻滅している群衆から、現大統領のジェイコブ・ズマ(Jacob Zuma)氏に対し、繰り返しブーイングが起きる一幕があった。

 10日、ソウェト(Soweto)にあるスタジアム「サッカーシティ(Soccer City)」で行われたマンデラ氏の追悼式に集まった数万の群衆の中からは、ズマ大統領へ向けて何度もブーイングが沸いた。

 スタジアムへ足を運んだ無職の37歳の男性は「南アフリカ人は自由は手にしたが、自由の恩恵はいまだ手にしていない。ズマ氏は約束を果たしていない」と憤った。

 アパルトヘイト(人種隔離)が正式に撤廃された1994年の全人種選挙から約20年経つが、世界で最も不平等な社会といわれる南アの黒人たちは今も貧困、失業にあえぎ、きちんとした住居を持てないでいる。庶民は家計をやりくりするのにも苦労し、かつてマンデラ氏が率いていた与党アフリカ民族会議(African National CongressANC)に対する国民の不満が募っているところへ、現ANC議長のズマ大統領が2000万ドル(約20億円)を費やして私邸を改修したことが明らかになった。

 ある追悼式参加者の1人は、一夫多妻制を実践するズマ大統領は国の恥だといい「多くの妻のために家を建て、浪費している」と非難した。

 また、ある不動産業者は「マディバ(マンデラ氏の愛称)は自分の家族に恩恵を与えたことなど一度もなかった。今の大統領ときたら、自分の家族と楽しんでいる。マディバはそんなことはしなかった。人々のために尽くしていた」と2人の指導者を比較した。

 参加者の中には、ズマ大統領がまだ追悼演説をしている間にスタジアムを立ち去った人々もいた。「彼(ズマ大統領)のいうことなど聞いていない。彼は下にいる人々のことを考えるべきだ。増税、道路の通行料金、食料品の値段の高騰にはもううんざり。多くの人は仕事がない」と述べた。

 ANCの広報担当者は、追悼式に参加者した群衆のブーイングについて、誰がやったのだとしても国として、また悲しみに暮れている「マディバの遺族」にとってもひどい仕打ちだと非難している。

 長年にわたって抑圧されていた黒人たちを解放したという歴史的地位を背景に、ANCは固い政権基盤を維持している。来年4月に行われる総選挙も圧勝すると予想されている。

 いくつかの進歩もあった。貧困層のための低価格住宅の建設や、水や電気といったインフラの提供、差別是正措置も通じて生まれた黒人中間層「黒いダイヤ」の登場──しかし、南ア人種関係研究所(South African Institute for Race Relations)」のアナリスト、フラン・クロンイェ(Frans Cronje)氏は、マンデラ氏が思い描いた社会にはいまだに程遠いという事実に変わりはないと述べる。人口の急増と世界的な経済危機の中で、何百万人という国民は依然、都市のスラムに暮らしている。

 プール付きの豪邸や電気の通ったフェンスで囲った家に住む人々がいる一方で、全世帯のうち今も約20%には水道、約10%には電気が通っていない。収入格差は縮まったものの、今も貧困層はほぼ100%が黒人だ。(c)AFP/Christophe BEAUDUFE