【11月28日 AFP】顔全体を覆うベールの着用を禁じたフランスのいわゆる「ブルカ禁止法」について、信教の自由を侵害する差別的な法律かどうかを問う裁判が27日、欧州人権裁判所(European Court of Human Rights)で始まった。

 一方この日、フランス首都パリ(Paris)でも偶然、頭を覆うスカーフの勤務中の着用をめぐって解雇されたイスラム教徒の女性に関する控訴審が開かれた。

 いずれも、フランスが長年貫いてきた世俗主義の伝統と国内最大の少数派であるイスラム教徒の一部とが対立する、長引く法廷闘争の例だ。

■「共生推進が目的」とフランス政府

 欧州人権裁判所での裁判は、英バーミンガム(Birmingham)に家族がいるフランス人の大学院生の女性(23)が原告。英国の弁護団とともに、フランス政府を相手取り、「ブルカ禁止法」は本質的に差別的な法律だとの判断を下すよう欧州人権裁判所に求めている。

 女性は「ブルカ禁止法」によって信教の自由、表現の自由、集会の自由を侵害されたと訴え、同法は差別の禁止を定めた法律に反していると主張。男性に強制されてブルカを着用しているわけではなく、治安上の理由で必要なときは脱いでも構わないと書面で証言し、仏当局がブルカ禁止の最大の理由としている2点に反論した。

 原告側弁護士の1人は、法廷で「ブルカ着用は過激派のしるしではない」と述べた。

 一方、フランス政府側の主任弁護士は、禁止の対象はイスラム教のベールやブルカだけでなく、オートバイのヘルメットや目出し帽など顔面を覆う全ての手段にわたると指摘。「この法律は、共生を推進するために作られたのであって、反宗教的な法律ではない」と主張した。

 欧州人権裁判所の判断は来年下される予定だ。

■ベール理由に解雇は不当?

 パリでの裁判は、職場でスカーフを着用して働きたいと主張して解雇されたイスラム教徒の女性保育員をめぐる控訴審(第2審)。この女性保育員は2008年、5年間の出産・育児休暇から職場復帰した際に、スカーフで頭を覆ったまま働きたいと保育所に申し出たが、「職員は価値観や政治的主張、宗教観において中立でなければならない」との規則があることを理由に拒否され、解雇につながった。

 第1審では今年3月、女性の解雇は宗教的差別に当たるとの判決が下されたが、パリの控訴裁判所は27日、この判決を覆し、保育所には女性を解雇する権利があるとの判断を示した。

 この判決に、世俗教育支持派からは画期的な判断だと歓迎する声が上がった。しかし、フランスの世俗主義の原則を強調する傾向はイスラム教徒のコミュニティーをやり玉に挙げる手段だとみるイスラム教団体は判決を非難。原告側弁護団も控訴の意思を表明しており、裁判がこのまま決着する可能性は低い。

■違反者には罰金2万円

「ブルカ禁止法」は、2010年にニコラ・サルコジ(Nicolas Sarkozy)前大統領の中道右派政権が成立させ、翌11年に施行された法律。社会党の現フランソワ・オランド(Francois Hollande)政権も同法を全面的に支持している。

 同法では公共の場で顔を全て隠すベールを着用することを禁じており、違反者には最大150ユーロ(約2万円)の罰金が科される。だが違反者の取り締まりや逮捕をめぐってもめる事例が相次いでおり、パリ郊外でも今年、取り締まりがきっかけで暴動が起きている。(c)AFP