【11月27日 AFP】タツノオトシゴ(海馬)は、相手に見つからないように行動することに長け、流線型の頭部の特性を利用して獲物に忍び寄るとの詳細な調査結果が26日、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に掲載された。

 かわいらしい小型魚で一見したところ、とても優秀な捕食動物には見えないのタツノオトシゴは、1秒間に約36回動く小さな背びれを使い、尾を渦巻き状にして体を直立させたまま泳ぐ。

 最高速度は時速150センチ程度にすぎず、失礼のないように表現すれば、実に「堂々とした」ペースでサンゴ礁や背の低い海草が一面に生えている中を進む。

 これらの事実から判断すると、捕食対象となるプランクトンのカイアシ類にとって、タツノオトシゴはそれほどの脅威になるはずがない。

 極小の甲殻生物のカイアシは、捕食動物の移動で生じる水の動きを極めて敏感に察知する能力を保有しており、2000分の1秒以内という非常に短い時間で反応し、超高速で逃げることができる。

 カイアシは、1秒間に体長の500倍以上の距離を進む速度で移動できる。人間に例えると、およそサッカー場10面分の距離を1回の跳躍で飛び越えることに相当する。

 このように手ごわい相手にもかかわらず、動作の遅いタツノオトシゴはいったいどのようにして捕食しているのだろうか。

 米テキサス大学(University of Texas)のブラッド・ゲンメル(Brad Gemmell)氏率いる研究チームが発表した論文によると、極めて優れた流体力学的形状を持つタツノオトシゴの頭部にその答えがあるという。

 長く突き出た鼻のような部位と流線型の頬骨を持つ頭部によって、水の抵抗を最小限に抑えることができるため、タツノオトシゴはカイアシに気付かれずに非常にゆっくりと忍び寄ることができる。

 標的までの距離が約1ミリ以内に近づくと、首にあるゴムひものような腱(けん)を使って頭部を前に押し出し、その距離にいる獲物に1000分の1秒足らずで飛びかかる。

 3次元(3D)ホログラフィー映像を使った実験室での試験の結果によると、小型のタツノオトシゴのドワーフシーホース(学名:Hippocampus zosterae)は、逃避反応を誘発せずにカイアシを射程内に入れることに84%の割合で成功したという。

 1ミリの射程内においては、94%の成功率で獲物を捕らえることができた。

 これらの洞察は、流れを乱さずに流体に浸すことが可能な流体力学的微細構造が製造工程で必要になる場合など、産業分野での応用が可能かもしれないと研究チームは示唆している。(c)AFP