【11月26日 AFP】過去最大級の猛烈な台風30号(アジア名:ハイエン、Haiyan)が直撃したフィリピンの被災地では、負傷したり家を失ったりした人々の救援活動がほぼ終了し、過酷な復興作業が始まろうとしている。

 今月8日に上陸した台風による同国での死者は、少なくとも5200人に上る。専門家によると、復興には数十億ドル(数千億円)と、長い年月を要する見通しだ。

 台風30号は、上陸した台風としては観測史上最大の強風を記録。沿岸部の町は津波のような高潮に襲われ、壊滅的な被害が出た。生き延びた人々を守ることが最優先とされ、被害が集中した貧困地帯の東部レイテ(Leyte)島とサマール(Samar)島での救援活動に重点が置かれた。各国の部隊が国際救援活動に参加し、孤立した被災地に食糧や水、医療品、その他の緊急物資を届ける作業を続けている。

 救援活動が順調に進み始めるなか、フィリピン政府と諸外国、被災地の人々は、気の遠くなるような復興作業に着手している。公式な復興費用の推定額は公表されていないが、フィリピンのアルセニオ・バリサカン(Arsenio Balisacan)国家経済開発長官は、復興費用は最大58億ドル(約5900億円)に達するとの見方を示した。

■住宅再建が最優先

 復興作業の最優先課題の一つが、避難を強いられた430万人が住むための住宅の再建や修理だ。政府によると、全壊した家屋は53万6000棟以上、一部損壊した家屋は50万棟という。

 また国際労働機関(International Labour OrganizationILO)は、雇用手段の再構築も緊急の課題だとしている。レイテとサマールの人々の多くは今回の台風以前は、米やココナツの栽培、漁業を中心とした自給自足に近い生活をしていた。

 ILOのローレンス・ジェフ・ジョンソン(Lawrence Jeff Johnson)氏はAFPの取材に対し、当面はがれき除去など緊急性の高い仕事の提供が中心になるが、長期的には、復興への取り組みは不安定な生活の回復にとどまらず、貧困軽減の機会をとらえることを目指すべきだと話した。

「(被災者に)大工や電気技師、配管工や溶接工などの技術を教え、より良い形での再建を助ける。事業の立ち上げ方を教え、自分で経営ができるようにするつもりだ」と同氏は話した。

■災害からの回復力を高める

 復興作業における最も重要な課題は、将来の災害の影響を受けにくい体制を整えることだ。フィリピンは毎年、20前後の大型台風に見舞われるが、特にレイテを含む東部の島々は影響を受けやすい。復興作業に携わる人々の多くは、影響を受けやすい地域に家を建てれば、再び災害につながるのは必至と考えている。

 カルロス・ジェリコ・ペティラ(Carlos Jericho Petilla)・エネルギー相は地元民放テレビ局ABS-CBNに対し、政府は災害からの回復力を高めることに重点的に取り組んでいるが、重要な課題に対する答えはまだ見つかっていないと話した。

 ペティラ氏は「同じ場所に家を建てることはできない」と述べ、現状では順守されていないことが多い、満潮時の海岸線から50メートル以内に家を建てることを禁止する法律について、今後は順守を徹底する方針だと言明。だが一方で、「50メートルで十分なのか。100メートルにすべきなのか。今回の高潮は、(内陸に向けて)1キロの地点まで水が到達した。どこに線を引くべきなのか」とも述べた。

 議会では法律に関する立案や議論が続いているが、被災者に政府の結論を待つ余裕はなく、致命的な間違いかもしれない事例が既に起きている。

 レイテ島沿岸部の村イメルダ(Imelda)に住む漁師のギエルモ・アドビンクラ(Guillermo Advincula)さん(58)と隣人は先週、海に面した木造の自宅を建て直した。

「なぜ同じ場所に家を建てているのかって?」と、記者の質問に戸惑うアドビンクラさんは、「ここが私たちの生活の場だからだよ。私たちの暮らしは海に頼っているんだ」と話した。(c)AFP/Karl MALAKUNAS