【11月25日 AFP】ボクシング選手のマニー・パッキャオ(Manny Pacquiao)が23日に行われたWBOインターナショナル・ウェルター級王座決定戦12回戦で米国のブランドン・リオス(Brandon Rios)を相手に判定勝ちを収めたことを受け、猛烈な台風30号(アジア名:ハイエン、Haiyan)が直撃したパッキャオの母国フィリピンは喜びに沸いた。

 試合前からこの戦いを被災者に捧げると宣言していたパッキャオにとって、フィリピン国民のために必ず勝たなくてはならない一戦だった。

 甚大な被害を被ったタクロバン(Tacloban)の避難所では無料開放のパブリックビューイングが実施され、圧倒的な支持でリオスを下したパッキャオの勝利は、一時的とはいえ、台風により家や生活環境を奪われ、愛する人を失った被災者の苦難を忘れさせた。

 大勢の被災者が歓喜に沸く中、41歳の男性は「勝ってくれて本当にうれしい。これはフィリピン全体にとっての勝利でもある。被災者をはじめ、国民の気力を高めることは間違いない」と語った。

 リオス戦の勝利を受けて、陸軍のノエル・コバレス(Noel Coballes)中将は、すでに予備軍の中佐に任命されているパッキャオに特別勲章が授与される可能性を示唆した。

「軍が何を提供できるか、彼が帰国したら考えてみよう。彼はフィリピン国民に喜びをもたらした。このような厳しい時期にあって、その功績は大きい」と同中将は話している。

 また、フィリピンのベニグノ・アキノ(Benigno Aquino)大統領のスポークスマンを務めるエルミニオ・コロマ(Herminio Coloma)氏は、「マニーがやったように、われわれも手を取り合って目の前の問題に打ち勝つ。厳しい戦いを前にして彼はフィリピン人が持つ力と国民性を発揮した」と勝利を称えた。

 猛威を振るいながらフィリピン中部を横断した超大型台風による死者と行方不明者は、合わせて7000人近くに上っている。

 このたびのタイトルマッチは、台風の脅威にさらされた被災者を元気づけるべく、タクロバンの4か所で無料放映された。

 地域最大の避難所となっているスポーツスタジアムには、観戦のために老若男女が家族連れで押し寄せた。

 スタジアムの座席は破壊され、天井は崩れ落ちるなど、台風が去って2週間以上が経つ今でもその爪痕が生々しく残っているにもかかわらず、会場は熱気に包まれた。

 マカオの試合会場で国歌が流れると、集まった人々も合わせて合唱し、戦いが始まってからは国民的ヒーローに声援を送り続けた。

 最終ラウンドに入ってパッキャオの勝利が現実味を帯びてくると、会場の祝福ムードは高まり、歓声と笑い声が飛び交った。

 打ちのめされたフィリピン国民は、パッキャオの勝利を必要としていた。

 台風で家を失った29歳のレーニエ・パンキンコ(Rainier Panquinco)さんは、「今日は最高にいい日だった。束の間ではあったけど、つらいことも忘れられた」としている。

 試合があった日曜日、パンキンコさんはパッキャオの勝利を祈り、観戦のために救援物資を受け取る行列に加わることを諦めた。

 パンキンコさんはさらに、「この勝利はタクロバンの人に、そしてレイテ(Leyte)島とサマール(Samar)島に希望を与えてくれた」と、最も被害の大きかった2つの島を挙げて述べた。

 台風30号は、今年フィリピンを襲った一連の天災の1つでしかない。10月にはマグニチュード(M)7.1の強い地震により200人を超える死者が出ており、多くの被災者が避難生活を強いられた。また、人災でも同国南部では9月にイスラム武装勢力の襲撃を受けて少なくとも244人の命が奪われ、10万人以上がホームレスとなった。

 前人未到の8階級制覇を達成している34歳のパッキャオは、ここまでの2試合で2連敗を喫しており、リオス戦を自身の再起戦として位置付けられていた。

 しかし、ボクシング選手として確立した名声をもって国会議員として政界に進出し、さらにCM出演でも人気を博しているパッキャオは、国民を落胆させるようなことはしないと戦う前から誓っていた。

 そして、判定の直後にリング上でマイクをとったパッキャオはこう宣言した。

「これは私の復帰戦ではない。これは災害と悲劇からの、わが国民の復帰戦だ」

(c)AFP