【11月24日 AFP】イタリア・カンパニア(Campania)州の州都ナポリ(Naples)近郊のがん発症率増加の原因が、同地を拠点とするマフィア「カモッラ(Camorra)」が不法投棄している有害なごみの可能性があることが明らかになった。大規模な健康被害の恐れを政府は無視しているとして、地元住民は怒りをあらわにしている。

 同地では、カモッラが当初考えられていたよりはるかに広い土地を、年間数百トンに上るごみの焼却や埋設に使用しているという証拠が相次いで明らかになり、地元住民数千人が抗議デモを行った。

 ごみから上がる煙が立ち込めるナポリ北部は「死の三角地帯(Triangle of Death)」と呼ばれるようになっており、絵はがきのように美しい景色で料理も有名なナポリ湾(Bay of Naples)に近いにもかかわらず、悲惨な光景になっている。

 不法なごみ処分場は、郊外の舗装されていない道路脇の人目に付かない場所にあり、農地のそばに不法投棄されたアスベスト(石綿)やタイヤ、工業用の接着剤などの有害廃棄物の大きな山ができている。

 ごみは定期的に焼却され、黒い煙が近隣の町に広がる。ごみは焼却されるだけでなく、埋められることもあり、地元住民が一番問題視しているのはクロロホルムやヒ素、重金属などによる農業用地下水の汚染だという。

■マフィアが80年代にごみ処理に進出

 カモッラが収益の大きいごみ処理ビジネスに手を出すことを決めた1980年代からこの地域に有害廃棄物が埋められ始めた。合法的なごみ処理料金よりはるかに安い金額を一般の企業から受け取ったマフィアは、企業から出たごみを原野や井戸や湖に不法投棄する。あるジャガイモ生産者は、ごみの不法投棄を疑った人たちが警察に相談しようとすると脅されていた、と話した。

 イタリア議会が先月、元マフィア関係者が1997年に行った不法投棄の場所と方法に関する詳しい証言を公開したことでこの問題の根深さが改めて示された。元マフィア関係者は「(不法投棄は)金を生む本当のビジネスになったが、住民は20年以内にがんで死ぬ危険がある。住民たちを救うことはできないと思う。私たちはあなたたちの子供たちを殺したんだ」と証言していた。証言したのは地元の犯罪組織のボスで終身刑判決を受けて服役中のフランチェスコ・スキアボーネ(Francesco Schiavone)受刑者の兄弟であることから、その証言には重みがある。

 環境保護団体レガンビエンテ(Legambiente)によると、1991~2013年にナポリ北部にはイタリア国内外から集まった約1000万トンの産業廃棄物が埋められたという。この期間に40万台を超えるトラックが主に夜間にごみを持ち込んだ。

■アレルギー、胎児異常、不妊、がんが急増

 イタリアのがん研究機関によるとがんになった人の数は女性で40%、男性で47%増えた。地元の墓地には子供の墓も増えてきているという。13歳の娘を亡くしたティナ・ザッカリア(Tina Zaccaria)さんは、「母親として、私たちはこれ以上ない高い代償を払っています。責任を認め、まだ生きている子供たちを救おうという人は誰もいません」と語った。

 現地のマウリツィオ・パトリチェッロ(Maurizio Patriciello)神父は、「これは人道危機なんです。腫瘍の患者がいない家は1軒もありません。黒い煙は昼夜を問わず四六時中出ています。あの煙は私たちから呼吸を奪い、私たちに死刑判決を下したのです。私たちを守ってくれるはずだった人たちは、そうすることができませんでした」と語る。

 複数の環境保護団体は、有毒廃棄物でカンパニア州のナポリ県とカゼルタ(Caserta)県に暮らす150万人が影響を受ける恐れがあると指摘している。ナポリ県の自治体フラッタマッジョーレ(Frattamaggiore)で約1600人の患者を治療しているルイジ・コスタンツォ(Luigi Costanzo)医師は、「みんな怖がっている。アレルギー、胎児の異常、不妊などとならんでがんも急増した」と言う。

■次は不法投棄廃棄物の処理事業を狙うマフィア

 議会の委員会はカンパニア地方に不法投棄されたごみは「計り知れない害を起こした…その影響は徐々に大きくなり50年ほど後に最大になるだろう」とする報告書を公表した。政府は、堆積廃棄物の発火防止、汚染された土地の収用、大規模な浄化計画策定などを行う専門組織を立ち上げた。

 しかし懐疑的な人々は、この問題を引き起こしたカモッラは、今や巨額の金が動く不法投棄廃棄物の処理事業に食い込もうとしていると言う。地元の活動家エンツォ・トスティ(Enzo Tosti)氏は、「ビジネスチャンスとしてはとても大きい。ごみが埋められている場所を地図の上で特定していけば、イタリアの国土の半分で処理事業が必要になるだろう」と語った。(c)AFP/Ella Ide