【11月15日 AFP】「赤ずきんちゃん」の行き先は、おばあさんの家だったのかもしれないが、人類学者らの関心は、赤ずきんちゃんの由来とその話がどのようにして広まったのかにある──。

 米オンライン科学誌プロスワン(PLOS ONE)で13日に発表された最新の論文によると、英ダラム大学(Durham University)の人類学者、ジャミー・テヘラニ(Jamie Tehrani)氏率いる研究チームは、種の進化の生物学的研究に広く用いられている数理モデルを適用することで、有名な民話「赤ずきん」の「系統樹」に相当するものを作成したという。

 今回のプロジェクトでは「古い時代にさかのぼると、世界中で広く知られているもう1つの民話『おおかみと7匹の子やぎ』と赤ずきんとに共通の起源がある」ことが明らかになった。

 テヘラニ氏は「これは、人類と他の類人猿とが共通の祖先を持っているが進化の過程で別の種に分かれていったことを生物学者が明らかにするのと似ている」と説明する。

 おおかみが母やぎに成り済まして子やぎを食べてしまうあらすじの「おおかみと7匹の子やぎ」は赤ずきんと比較して起源が古く、1世紀に誕生したと考えられている。この話は欧州と中東で広く知られている。

■「赤ずきん」の変種58例を解析

 大きな悪いおおかみがおばあさんに変装して女の子を食べてしまう話の「赤ずきん」は、「おおかみと7匹の子やぎ」の誕生から約1000年後に枝分かれしたという。

 1800年代にドイツのグリム兄弟(Brothers Grimm)が再話した童話の1つである「赤ずきん」についてテヘラニ氏は、その起源がフランス、オーストリア、イタリア北部で語り伝えられてきた口承物語に由来していることを研究を通じて明らかにした。

 また、日本・中国・韓国の「虎ばあさん」のような多数の変種がアフリカやアジアでも語られているとした。

 テヘラニ氏は「赤ずきん」の歴史を明らかにするために、この物語の変種58例について、系統発生分析と呼ばれる手法を採用し、72の変数を徹底的に解析した。変数には、主人公は女の子か男の子か、集団か兄弟姉妹か、悪役はおおかみか、虎かもしくは別のものか、悪役が使う策略は何か、主人公は救出されるか否かなどが含まれている。

 解析では、共通の起源を持つ確率に基づく得点を各変数に与える。この得点を用いると、解析対象の物語が枝分かれでたどった可能性が最も高い経路を示す系統樹を作成できる。

 テヘラニ氏は「赤ずきんの初期の原型版は(西洋に広まる以前の)中国の口承伝承に由来するという通説がある」と指摘する。だが「実際には、中国のものは欧州の口承伝承から派生したもので、逆は成り立たないことが今回の解析で示された」と述べている。

 テヘラニ氏は他の民話にも同じ手法を用いた研究を進めており、その研究データが古代人類の移動パターンの解明に役立つことを期待していると述べた。(c)AFP