【11月13日 AFP】危険を追い求める21世紀のエグゼクティブに必要な要素をすべて兼ね備えたスリーピース・スーツがカナダのテーラーによって制作されている──世紀のスパイ、ジェームズ・ボンド(James Bond)をも嫉妬させるようなキラールックスの「防弾」スーツだ。

 オーダーメード・スーツを手掛ける「ガリソン・ビスポーク(Garrison Bespoke)」が、スタイルと安全を兼ね備えた1着だと自信を見せる高級スーツは、1着2万カナダドル(約190万円)。軽量のカーボン・ナノチューブ技術を採用し、着用している人を銃弾やナイフの刃から守る。

 暗殺から死を免れる方法を、選ばれた秘密の顧客だけに提供するとしているガリソン・ビスポーク。特別プロジェクトを率いた同社のデビッド・チャン(David Tran)氏は「究極のジェームズ・ボンド・スーツを作ることに専念した」と語る。

 チャン氏によれば、このスーツを着想したきっかけは、外遊先で銃撃された経験のある顧客との会話だった。しかしクールなオーダースーツで名を馳せる同社としては、軍の装備や警察の制服に防弾素材として使用される剛直な繊維「ケブラー(Kevlar)」をそのまま使うわけにはいかなかった。

 そこでビスポーク社では、イラク戦争時に米軍特殊部隊に高級防弾ベストを供給していた請負業者に接触した。契約により、この業者の名前を明かすことはできないという。

 顧客に合わせてスーツの型が決まったら、6枚の極薄のナノチューブ・シートをジャケットの背面とベストの前面に忍び込ませる。スーツのパリッとした清潔な印象が失われることはない。

「当社では、金融業界や鉱業・石油業界の多くの関係者から、危険な地域に渡航する際には心底緊張するという話をよく聞く。こうした緊張は、幹部レベルの戦略会議などにも影響しますから」とチャン氏はいう。

「こうした人々が着る防弾スーツは本当に目立ってはいけない。分厚く不格好な服装では、相手を警戒もしくは信用していないといった誤ったメッセージを与えてしまう」

 新たな防弾スーツが出来上がったとき、最初に購入したのはこのスーツを作るきっかけを同社に与えた顧客だったという。現時点ですでに6着を受注し、さらに順番待ちの顧客もいる。たとえ世界の首脳陣のスーツを作ってもらいたいと、各国大統領や首相のスタッフが接触してきても順番は不動だという。

 1着ごとに異なるオーダーメードの着心地を誇る同社は、この高級防弾スーツによってちょっとした窮地に陥ってもいる。「当社には大量生産を行う準備は整っていないので、今後の動きをどうしたら良いか、現在再検討しているところ」とチャン氏は述べた。(c)AFP/Adrian Lee