【11月7日 AFP】子どもへの体罰を初めて禁止した国として、スウェーデンは子育てに関する議論で他国に先んじてきたが最近、そうした子ども中心主義が行き過ぎ、子どもの傍若無人な振る舞いがまかり通っているという批判が挙がっている。

 自らも6人の子どもを持つ同国第一線の精神科医デビッド・ エーベルハルド(David Eberhard)医師は「子どもはいかにしてパワーを得たか」と題する近著の中で、現在30か国以上で採用されている体罰禁止法を初めて施行した1979年以降、この法律をスウェーデン社会は事実上拡大適用し、子どもを叱ること自体を禁じるところにまで至っていると指摘している。

■やりたい放題を生んでいるのは自由放任主義?

 同医師は「もちろん、子どもの言うことに耳を傾けなければいけないが、スウェーデンは行き過ぎている。就寝時間から食事のメニューまで、家庭内のことすべてを子どもが決めがちだ」と述べ、そうした自由放任な子育てによって大人になる準備ができていない若者が生まれていると批判する。「(そうした育ち方をした)若者は期待感が高すぎ、人生は辛すぎると感じがち。不安障害や自傷行為の劇的な増加と無縁ではない」

 こうした見解に異議を唱える専門家もいる。スウェーデンの若者の幸福感は今でも世界で最高水準にあるという家族療法士のマーティン・フォーシュテル(Martin Forster)氏はその1人だ。同氏は「子どもはもっと中心にいて耳を傾けられるべきだという考え方が、スウェーデンでは非常に大きい。子どもが何でも決めすぎるというのも価値観の問題だ。子育ての方法が違えば、生まれる文化も違う」と述べている。

 とはいえ、学校での落第から騒がしい教室まで、自由放任な子育てによる学校生活への影響を指摘する苦言や議論は盛んだ。地方紙の記者オーラ・オロフソン(Ola Olofsson)氏は、自分の子どもが通う学校の教室で見た「カオス」をコラムに書いたところ、腹を立てた保護者や教師からコメントが殺到し、新聞のウェブサイトがダウンした。

■民主主義と平等を反映した子育て観

 では、スウェーデンの子育てが他国の子育と違うところは何なのか。家族療法士のフォーシュテル氏は、これはむしろ政治的な問題で、そのために子育て方法の善悪に関する議論によって親たちは、他のどの国よりも混乱させられがちだという。

 子どもの福祉に関して政府が2010年に行ったアンケート調査を受け、各地方自治体では子育てに悩む親を支援する「すべての子どもが中心に」と題する無料の子育て講習を提供した。このコースは、子どもを叱っても長い目で見て言動は改善せず、また限界を設定することが必ずしも正解ではないという考えを柱としている。

 このコースを企画した1人、心理学者のカイサ・ローエンロダン(Kajsa Loenn-Rhodin)氏は「子どもに協力させたいと思ったら一番良いのは、その子どもが協力したくなるような近しい関係を築くことだ」という。一方、子どもが世の中を牛耳っているという考えは否定する。同氏は「子どもがひどい扱われ方、過酷な仕打ちを受けているときの方が問題は大きい」と語っている。

 カロリンスカ大学病院(Karolinska University Hospital)小児科のヒューゴ・ラーゲルクランツ(Hugo Lagercrantz)教授は、スウェーデンの子育ての多くはこの国が重きを置く民主主義と平等の理念に由来すると説明し、「スウェーデンの子育てはあまりに民主的であろうとし過ぎている。親は親らしく振る舞い、決定を下し、いつでも人気者であろうとしないことだ」と述べた。

 一方で同教授は、スウェーデン式子育ての長点も見出している。「スウェーデンの子どもたちはとても率直で、自分の意見が言える」。ファッションブランドのH&Mや、家具チェーンのイケア(Ikea)など、中間管理職が少ない水平な経営組織で知られる同国生まれの多国籍企業を育んできたのは、スウェーデンならではの平等の伝統だと教授は分析し、「スウェーデンはピラミッド型社会とはだいぶ異なり、それがある面、非常に良い。経済的にかなりうまくいっているのもそれが一因だ」と述べている。(c)AFP/Tom SULLIVAN