【10月29日 AFP】現代の医療では、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による症状の進行を抑えることはできても完治は不可能だが、それはHIVの「隠れ家」が予想以上に大きいことに理由があるかもしれないとする研究論文が24日、米医学誌セル(Cell)に掲載された。

 米ジョンズホプキンス大学医学部(Johns Hopkins University School of Medicine)などの研究チームが発表した最新の論文によると、残存するHIVは、人体の免疫細胞内で休眠状態になることができる。このいわば潜伏する病原巣は、これまでの推定よりも60倍大きいことが明らかになったという。

 HIVは通常、感染者が抗レトロウイルス薬の服用を止めると即座に再活性化して、後天性免疫不全症候群(エイズ、AIDS)の本格的発症を引き起こす恐れがあるが、3年間に及ぶ研究室での実験に基づく今回の研究結果はその理由を説明している。

 研究を率いたジョンズホプキンス大のロバート・シリチアーノ(Robert Siliciano)教授は「HIV疾患を完治させる治療法を見つけることは、これまで考えられ、待ち望まれてきたよりもはるかに困難なことを、われわれの研究結果が確固と示している」と語った。

 同教授は、休眠中のHIVの病原巣が免疫細胞内に存在することを1995年に初めて明らかにした。

 血液検査でHIVが検出されない場合でも、全身の細胞や組織の中に残存するHIVであるプロウイルスが213個存在することが知られている。このうち全体の12%に相当する25個が、自らを再活性化して遺伝物質を複製し、他の細胞に感染する恐れがあることが今回の研究で明らかになった。

 この結果は研究チームを驚かせた。これらの非誘発性のプロウイルスは、これまでは「不完全」とみなされていたため、HIV感染症の再発には何の役割も果たさないと考えられてきたからだ。

 今回の研究では、無傷の非誘発性プロウイルスの感染頻度は、これまで知られてきた潜在的に危険な残存ウイルスに比べて「少なくとも60倍高い」ことが明らかになった。

 完治を達成するためには、これらの無傷の非誘発性プロウイルスを一掃する必要があると専門家らは述べている。そのためには、この種のプロウイルスを標的とする特殊な薬剤が必要になる。

 世界のHIV感染者数は3400万人以上に達している。30年間に及ぶ世界的な流行で、毎年約180万人が死亡している。(c)AFP/Kerry SHERIDAN