【10月24日 AFP】ナチス・ドイツ(Nazi)によるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)の犠牲者がかつて住んでいた場所を通ると、犠牲者の名前や写真、生没年、経歴が表示される、スマートフォン(多機能携帯電話)のアプリが23日、ドイツで発売された。

 ドイツ南部を拠点とするアプリ開発会社pARtcoursの広報担当者はAFPに「私たちが思い描いているのはミュンヘン中に浮かぶ仮想の記念館」と話し、「顔写真と経歴などを加えて、ナチスの犠牲者の運命を公開したい」と述べた。

 アプリの名前は「ミュンヘンのつまずきの石(Stolpersteine Muenchen)」。「つまずきの石」は、ナチスの犠牲者の名前や生年月日などが刻まれた小さなプレートが付いたブロックで、犠牲者が最後に暮らしていたとされる住所の前を通る道に埋め込まれている。pARtcoursは、アプリはこうした記念碑のバーチャル版、記憶にとどめておくためのデジタル記念碑だと説明する。

 「つまずきの石」プロジェクトは、ナチス政権による大量虐殺の犠牲者を追悼するため、ドイツ・ケルン(Cologne)在住の芸術家、グンター・デムニヒ(Gunter Demnig)氏が1996年に始めた活動だ。プロジェクトのサイトによると、年末までに欧州の約1000か所で4万3500個以上のブロックが埋められるという。

 だが、ミュンヘンにはつまずきの石がない。通行人がブロックの上を歩くことで、犠牲者の記憶の神聖を再び汚すことになると主張するユダヤ人社会の代表者とミュンヘン市当局がプロジェクトに反対したためだ。そのため、ミュンヘンでもこれまでに犠牲者200人の家族がつまずきの石の製作を依頼しものの、実際の記念碑は倉庫に保管されたり、私有地に設置されたりしているという。アプリには現在、その200人の犠牲者の経歴が含まれている。pARtcours広報担当者は、いつの日か、アプリがミュンヘンの記念碑を補完する役目を果たすと期待を込める。(c)AFP