【10月20日 AFP】1912年に北大西洋で沈没した英豪華客船タイタニック(Titanic)号で、乗客を落ち着かせようと最後まで演奏を続けて7人の仲間とともに死亡した楽団のバンドマスターが使っていたバイオリンが19日、英イングランド(England)南西部デバイジズ(Devizes)で競売にかけられ、タイタニック号にゆかりのある品としては最高額の90万ポンド(約1億4200万円)で落札された。

 オークションを行ったタイタニック号関連の品を専門に扱う競売会社ヘンリー・オルドリッジ・アンド・サン(Henry Aldridge and Son)によると、バンドマスターのウォレス・ハートレー(Wallace Hartley)氏のバイオリンを競り落としたのは英国の収集家。

 競売人は冗談めかして「私の友人2人も参加できるように」と話し、50ポンド(約7900円)という低い金額でオークションを始めたが、わずか数分でタイタニックゆかりの品の落札価格としてはこれまでの最高価格だった、2011年にオークションにかけられたタイタニックの沈没原因の調査に使われた幅10メートルのタイタニックの断面図の22万ポンド(約3500万円)を超えた。

 価格が35万ポンド(約5500万円)を超えると電話で参加した2人の激しい競り合いになり、会場に集まった約200人はただ息をのんで戦いを見守った。オークション会社の広報担当者はAFPに対し、オークションの開始から落札者が決まるまで10分ほどしかかからなかったと述べるとともに、落札者が決まったことを「本当に、とても嬉しい」と話した。手数料などを含めた最終価格は105万30ポンド(約1億6583万3000円)だという。

 今回のオークションではこの他に、1997年公開の映画『タイタニック(Titanic)』の中でハートレー氏を演じた俳優が使用したバイオリンなど数十点が競売にかけられた。

■数奇な運命たどったバイオリン

 史上最高額で落札されたバイオリンは、タイタニック号沈没の時に33歳だったハートレー氏が1910年に婚約者のマリア・ロビンソン(Maria Robinson)さんから贈られたものだ。バイオリンには、「ウォレスへ、婚約を記念して マリアより」と刻まれた銀製の飾り板が取り付けられている。

 バイオリンは長年、所在が分からなくなっていたが、2006年にイングランド北西部の民家の屋根裏で発見された。その真贋について論争になったが、最近になって本物だということで決着した。

 ハートレー氏の遺体はタイタニック号の沈没から10日後に収容された。バイオリンは遺体に結び付けられていた皮製のバッグに入っていたと考えられている。バイオリンは、発見からしばらくしてロビンソンさんの元に届けられた。

 ハートレー氏のバイオリンはこれまでに、米ミズーリ(Missouri)州ブランソン(Branson)とテネシー(Tennessee)州ピジョン・フォージ(Pigeon Forge)にある世界最大規模のタイタニック博物館の他、英国・北アイルランドのベルファスト(Belfast)にある博物館でも展示された。(c)AFP/Danny KEMP